怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

森林公園のブランコ

ある晴れた週末の午後、Yさんは小学生になる娘を連れて、山のふもとにある森林公園を訪れていた。

 

都会の騒がしい場所と違い、休日でも人がまばらで、静かに過ごしたい家族にはうってつけだった。

Yさんの目的は、娘がネットで見て興味を持った、園内奥にある木製遊具だった。

 

木製の滑り台やジャングルジムでしばらく遊んだ後、娘はふと、その奥にひっそりと佇むブランコを見つけた。

それは古びた木製のもので、使い込まれた座面はすっかり色褪せ、鎖は錆びついていた。

他に遊んでいる子どもはいない。

娘は迷うことなくそのブランコへ駆けていき、楽しそうに揺らし始めた。

Yさんは少し離れたベンチに座り、娘の無邪気な姿を眺めていた。

 

すると突然、娘が座るブランコの隣にあるもう一つのブランコが、ギィ、ギィ…と音を立ててゆっくりと揺れ始めた。

Yさんはなんで揺れてるんだろうと思い、風で揺れてるのかな?とじっと見つめた。

しかし周りの木々は微動だにせず、公園内を吹き抜ける風などどこにもない。

それでもブランコは、まるで誰かが座って揺らしているかのように、ギーギーと揺れている。

Yさんはすぐに異変を感じた。

Yさんが娘に声をかけようとベンチから立ち上がったその時、ブランコに乗ったままの娘が、Yさんの顔を見上げることなく、怖がる目でブランコの奥の一点を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「お姉ちゃん、怖い顔してる」

その言葉に、Yさんは全身に鳥肌が立つような悪寒を感じた。

娘の視線の先を追うが誰もいない。

ただ古びた木製遊具と、静かに揺れるブランコだけがある。

Yさんには、娘が言った「お姉ちゃん」らしき人影は、どこにも見えなかった。

いや、見えないはずだった。

娘のその言葉は、Yさんの胸に得体の知れない恐怖を植え付けた。

Yさんは急いで娘の元へ駆け寄り、ブランコから降ろし、もう帰ろうと娘の手を引いて歩き出す。

Yさんは娘の手を引きながら何度も振り返ったが、そこには誰もおらず、ただブランコが揺れてるだけだった。

 

その晩、娘は高熱を出した。

うなされる娘の寝顔を見ながら、Yさんはふと、娘の手の甲に目をやった。

そこには五本の指の形をしたような、くっきりと赤いあざが残されていた。

それはまるで、誰かが娘の細い手を、強く掴んだかのような跡に見えた。

あの時、Yさんには見えなかった「お姉ちゃん」が、娘を掴んだのだろうか。

 

その夜、Yさんは娘が連れて行かれるんじゃないかと心配になり、一睡もできなかった。

それからは、その森林公園へは足を運んでいないそうだ。