怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

悪天候の時、山小屋の窓に…

Sさんは学生の頃から登山が趣味で、社会人になってからも週末になると、一人で山へ出かけることが多かった。

 

その日もいつものように単独登山を楽しんでいたのだが、予報にない悪天候に見舞われ、急遽、山中の避難小屋に泊まることになった。

小屋は古く、軋む音が不気味に響く。

Sさんは持参した食料を広げ、ラジオで天気予報を聞いた。

夜遅くになるとさらに荒れるらしい。

不安を覚えながらも、疲労からすぐに眠りについた。

 

深夜、ガタガタと窓が揺れる音で目が覚めた。

最初は風の音かと思ったが、その音は明らかに何かが窓にぶつかっているような、規則的なものだった。

Sさんは恐る恐る体を起こし、カーテンの隙間から外を覗いた。

 

そこには、はっきりと人のような影が、こちらをじっと覗き込んでいるのが見えた。

この小屋は2階建てで、Sさんが寝ているのはその2階だ。

こんな時間に、ましてや外は土砂降りの豪雨だというのに、誰かが2階の窓から中を覗いているなどありえない。

これは疲労からくる幻覚か、それともただの夢だ。

Sさんはそう自分に言い聞かせ、震える手で布団を頭から被った。

視界を遮れば、あの影も消えるはずだ。

Sさんは必死に目を閉じ、眠ろうとした。

 

しばらくすると、ガターン!という、先ほどのガタガタとは比べ物にならないほど大きな音が響いた。

Sさんは飛び起き、再び窓を見た。

しかし、先ほどの影はどこにも見当たらなかった。

Sさんは恐ろしさで声も出なかった。

あの影は、一体何だったのだろうか。

 

翌朝、雨は小降りになっていた。

Sさんは意を決して外に出て、窓の下を確認した。

するとそこには、小屋の壁に立てかけられていたようなはしごが倒れていた。

前日の夕方に小屋に着いた時には、そんなものはなかったはずだ。

どうやら、何者かが2階の窓から侵入しようとしていたのは間違いなかったらしい。

Sさんはぞっとした。

一体誰がこんな嵐のような夜に、しかも2階の窓から侵入しようとしたのだろうか。

なぜ正面の入り口から来なかったのか。

そしてあの影は、なぜSさんをじっと覗き込んでいたのだろうか。

Sさんはその山小屋を後にするまで、ずっとその理由が分からず、得体のしれない恐怖に包まれたままだったと、不思議そうに語っていた。