怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

無人駅の背後に座った何か

ある年の夏、Kさんはいつもの地方の無人駅のホームで、最終電車を待っていた。

残業で遅くなってしまい、疲れた体をひきずって辿り着いたこの駅には、最終の到着を待つ乗客はKさん一人だけだった。

深夜の駅のホームは、街灯の明かりがぼんやりと照らすだけで、物音ひとつしない。

普段なら虫の鳴き声がうるさいのだが、この日は虫の声すら聞こえず、ただただ静寂がKさんを包んでいた。

 

その時、背後のベンチから「きしり」という小さな音が聞こえた。

誰かが腰かけたような、そんな音だった。

こんな時間に他の乗客がいるんだ、とKさんは気になって振り返った。

しかしベンチには誰もいなかった。

ただ、古びた木製の座面には、くっきりと濡れたような跡が残っていた。

今夜は雨など降っていない。

Kさんは首をかしげ、気味悪さを感じた。

 

やがて遠くから列車の音が近づいてきた。

ヘッドライトの光が闇を切り裂き、電車がゆっくりとホームに滑り込んでくる。

Kさんはドアが開くのを待った。

しかし、電車はKさんの目の前で停止したものの、ドアは開かなかった。

窓ガラス越しに車内の人影がぼんやりと見える。

皆、一様にこちらをじっと見ている。

その視線は冷たく、まるでKさんを拒絶しているかのようだった。

 

その時だった。

背後のベンチから、ゆっくりと何かが立ち上がったような、そんな感覚と音がした。

「ぞり…」という、重いものが擦れるような音。

Kさんは恐る恐る振り返ったが、やはりそこには誰もいない。

ただほんの一瞬、電車の薄暗い車内に、うっすらとした黒い何かが乗り込んでいくのが見えた気がした。

 

数秒後、ドアはついに開くことなく、電車はゆっくりと動き出した。

Kさんはただ立ち尽くし、その電車を見送るしかなかった。

そして信じられないことに、その電車は駅の構内を出てしばらくすると、まるで霧に包まれたように忽然と姿を消してしまったのだ。

 

取り残されたKさんは、凍り付いたようにその場を動けなかった。

あの濡れたベンチの跡、開かなかったドア、そして消えてしまった電車。

一体何が起こったのか、Kさんには全く理解できなかった。

ただ、あの時背後に感じた、得体の知れない存在の気配だけが、深く脳裏に焼き付いている。