怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

深夜、隣の部屋の壁から聞こえてくる異音

大学生のMさんが住む築十年ほどのアパートは、都心へのアクセスも良く、静かな住宅街の中にあった。

 

隣の部屋に新しい住人が引っ越してきたのは、梅雨が明けたばかりの蒸し暑い日のことだった。

挨拶に来たのは痩せぎすで、どこか陰のある雰囲気の男性だった。

名前は確か、Sさんと言ったはずだ。

Sさんはとても物静かで、Mさんが生活音に気を遣う必要がないほど、物音を立てることがなかった。

 

異変に気づいたのは、引っ越しから二週間ほど経った頃だった。

夜中の二時過ぎ、Mさんが眠りにつこうとしていたとき、壁の向こうから微かな音が聞こえてきた。

それは誰かが何かを削っているような、あるいは爪で壁を引っ掻いているような、そんな音だった。

最初は気にしなかったが、その音は毎日、同じくらいの時間に聞こえてくるようになった。

 

Mさんはその音の正体を確かめようと、注意深く耳を澄ませた。

それは単なる生活音ではない気がした。

壁の向こうで誰かが、単調に何かを刻んでいるかのように聞こえる。

ガリガリ、と、金属の道具が木材を削るような、そんな不気味なリズムだった。

 

日が経つにつれて、その音は次第に規則的になっていった。

まるでタイマーが刻むように、正確な間隔でガリガリ、と聞こえてくる。

Mさんはもう熟睡することができなくなり、寝不足気味の日々を送るようになった。

 

そしてある朝、Mさんは自分の部屋の壁の一部に、小さな亀裂が入っているのを見つけた。

それは音が聞こえてくるまさにその場所だった。

最初はかろうじて見えるほどの線だったが、日が経つにつれて、その亀裂はゆっくりと広がり始めた。

恐怖を感じたMさんは、意を決してSさんの部屋を訪ねてみた。

しかし、何度ドアを叩いても応答はなかった。

窓からはカーテンがいつも閉まっており、中の様子を窺うことはできなかった。

Sさんは本当に住んでいるのだろうか?そんな疑念がMさんの心をよぎった。

 

ガリガリ、という音は毎晩続き、壁の亀裂はさらに深くなっていった。

Mさんはもう寝るのが怖くなっていた。

まるで壁の向こうから、得体の知れない何かがゆっくりと近づいてくるような、そんな悪夢にうなされる毎日だった。

 

ある夜、ガリガリ、という音がいつもより近くに聞こえた気がした。

Mさんは電気を全て消し、壁に耳を押し当てた。

そのとき、ガリガリガリ…という、今まで聞いたことのない重々しい音が、壁の中から響いてきた。

そして壁の亀裂が突然、大きく広がった。

恐怖のあまり腰が抜けたMさんは、悲鳴を上げながら部屋を飛び出した。

管理人に全てを話したが、二人で確認した時には壁に穴なんてなく、普通の状態だった。

さらにSさんが心配だという体(てい)で管理人さんに確認してもらったところ、Sさんは夜勤の為、Mさんがその異常な現象が起きている時には部屋にいなかったという。

それを聞いてもMさんは、もうあの部屋に戻ることはできず、友人宅から新しい場所をすぐに見つけ、しばらく友人にお世話になった。

 

数日後、Mさんはアパートを引き払い、別の場所へ引っ越した。

さらに数日経った頃、Mさんが以前そのアパートで知り合った大学生の友人から聞いた話。

Mさんが住んでいた部屋で業者が壁の点検をしていた際、壁の中におかしな空洞がある事を見つけ穴をあけてみる事にしたそうだ。

すると…壁の中から数多くの薄い金属片と、人間の形をしたような木製の奇妙な人形が出てきたという。

その人形の表面には、無数の細い線が刻まれていたそうだ。