小学生のHさんは、夏休みの宿泊体験で地域のお寺に来ていた。
ここは広く、古くからの言い伝えも多い場所だった。
お寺の敷地の隅には、苔むした小さな石のお地蔵様が、いくつも横一列に並べられていた。
どれも同じような大きさで、素朴な表情をしている。
肝試しではないが、Hさんは友達と「あのお地蔵様の数を数えてみよう」と話していた。
特に意味はなかったが、子供心にそうやって何かを探したり、数えたりするのが面白かったのだ。
夕方、夕食前にHさんと友達は一緒にお地蔵様の数を数えた。
全部で二十三体。
確かにその数だけお地蔵様は並んでいた。
陽が傾き、影が長くなっていたが、はっきりとその存在を確認できた。
夜になり、本堂に布団を敷いて寝る時間になった。
みんなで今日あった出来事を小声で話していたが、やがて静かになり、寝息が聞こえ始めた。
Hさんもウトウトしていたが、ふと目が覚めた。
喉が渇いたのだ。水を飲もうと起き上がり、窓の外に目をやった。
月明かりが差し込み、昼間とは違う雰囲気にしばらく眺めていた。
その時、Hさんの視線は自然と、お地蔵様が並んでいる場所へと向かった。
昼間は何も感じなかったのに、夜の帳が降りた今、そこには何か違和感があった。
目を凝らすと、昼間にはなかったはずの、ぽっかりと空いた場所があることに気づいた。
ちょうどお地蔵様一体分くらいの空白が、そこにできていた。
Hさんは息を呑んだ。最初は気のせいかと思った。
夜の暗がりがそう見せているだけだろうと、何度も目をこすった。
しかし、何度見てもそこには確かに空白があった。
昼間、きっちりと並んでいたお地蔵様が、一つだけ、まるでそこから姿を消したかのように、ぽっかりと空いていたのだ。
Hさんには意味が分からなくなり、ただその空白をじっと見つめることしかできなかった。
何事も無かったかのようにそっと布団に潜り込み、震えながら朝が来るのを待った。
翌朝、Hさんは恐る恐る他の友達にそのことを話した。
どうやら他の子もそれを見たらしく、一人が「お地蔵様の数を確かめてみよう」と言い、他の子も興味を示し、みんなで敷地の隅へ向かった。
そして確認してみると、昨夜にはぽっかりと空いていた場所が、元のようにお地蔵様で埋まっていた。
数を数え直してみると、やはり二十三体。
「え、なんで?」
誰かがそう呟いた。元に戻っている。
得体の知れない沈黙が、その場を支配した。
子供たちは顔を見合わせ、騒ぎながら皆がいる場所に戻りその事を話したが、寝ぼけてたんでしょ。と言われるだけだった。