とある学校で教員をしているKさんが、学生だった頃に体験した話。
Kさんは地方の大学に進学するため、初めて一人暮らしをすることになった。
大学から少し離れた築年数の古いアパートの一室を借りることになったのだが、家賃が相場よりもずっと安く、広さも十分だったのでKさんは大満足だった。
部屋は日当たりもよく、静かで勉強するにはもってこいの環境。
ただ一つだけ気になったのは、備え付けのクローゼットだった。
クローゼットの扉はなぜかいつも少しだけ開いていて、閉めてもすぐにまた少し開いてしまう。
Kさんは、建付けが悪いのだろう、と特に気にせずに服をしまっていた。
ある日のこと、Kさんは夜遅くまで大学の図書館で勉強し、疲れて帰宅した。
部屋の電気をつけ、コートを脱ごうとした時、ふとクローゼットに目をやった。
いつも通り、扉は少し開いている。
その隙間から、何か黒いものが覗いているように見えた。
Kさんは「あれ?こんなもの入れたっけ?」と思いながら近づいて扉を大きく開けた。
そこに吊るされていたのは、見覚えのない真っ黒なワンピースだった。
Kさんは首を傾げた。
自分はこんな服は持っていないし、そもそも最近服を買った覚えもない。
もしかしたら前の住人の忘れ物だろうか、でもだとしたらなぜこんなにきれいにハンガーにかけられているのだろう、と疑問に思った。
とりあえずそのままにして、Kさんはその日は疲れていたので、シャワーを浴びてすぐに眠りについた。
翌朝、目が覚めて身支度をしようとクローゼットを開けると、昨日と同じ黒いワンピースが吊るされている。
Kさんはやっぱり見覚えがないなと思いながらも、特に気にせず大学へ行った。
そんな日が何日か続いた。
クローゼットには、いつの間にか増えている服があったり、逆に無くなっている服があったりする。
どれもKさんの持っている服とは違う、見慣れない服ばかりだった。
最初は気のせいだと思っていたKさんだったが、次第にそれが頻繁に起こるようになり、さすがに不気味に感じ始めた。
ある夜、Kさんが寝る前にクローゼットの扉を完全に閉めた。
ぴったりと隙間なく閉まっていることを確認し、ベッドに入った。
しかし、ふと物音で目が覚める。
時計を見ると、真夜中の3時を過ぎた頃だった。
薄暗い部屋の中、Kさんはゆっくりと目を開ける。
そして、視線は自然とクローゼットの方へと向かった。
クローゼットの扉は、やはり少しだけ開いていた。
しかし、そこから覗いているのは、昨日までの見慣れない服ではなかった。
まるで、誰かの視線がそこからこちらを覗いているような、そんな気がした。