Hさんは、大学の友人たちと廃墟巡りをするのが趣味だった。
廃れた場所の持つ独特の雰囲気に惹かれ、カメラ片手に様々な場所を訪れていた。
ある日、Hさんはネットの掲示板で「地図から消えたトンネル」という古いトンネルの存在を知った。
それは、かつて使われていた鉄道のトンネルで、今は完全に閉鎖されているという。
危険だと忠告する書き込みも多かったが、Hさんの好奇心は抑えきれなかった。
Hさんは廃墟巡りの仲間である友人のFさんと二人で、そのトンネルを目指すことにした。
車で山道を奥へ奥へと進むと、やがて古びた標識が見え、その先に目的のトンネルの入り口が見えてきた。
入り口は分厚い鉄板で厳重に塞がれ、錆びたチェーンと南京錠が何重にも巻かれていた。
しかし鉄板の下にはわずかな隙間があり、大人でも這いつくばればギリギリ入れるほどの空間が開いているのを見つけた。
Fさんは少し躊躇したが、Hさんの「こんな場所は二度と見つけられないかもしれない」という言葉に押され、二人で隙間から中へと潜り込んだ。
トンネルの中はひんやりとしていて、湿った土と古いコンクリートの匂いがした。
懐中電灯の光も届かないほど奥深くへと、闇が続いていた。
足元は水たまりが多く、歩くたびに「チャプ、チャプ」と音が響いた。
歩き始めてすぐ、トンネルの奥から微かに「カタン…カタン…」という音が聞こえてきた。
それは、まるで列車がゆっくりと進むような、どこか乾いた金属が擦れるような音だった。
Hさんたちは顔を見合わせたが、古いトンネルだから何かの音がするのだろうと、深くは気にしなかった。
さらに奥へ進むと、その音は次第に大きくなっていった。
一定のリズムで響くその音は、まるで自分たちのすぐ後ろからついてきているかのように感じる。
Hさんは何度も後ろを振り返るが何も見えない。
Hさんが記録を残そうと、写真を撮ろうとカメラを構えた時だった。
ファインダー越しに、懐中電灯の光が照らすトンネルの壁に、奇妙な影が映り込んでいるのが見えた。
それは人の形をしているようにも、そうではないようにも見える、曖昧で揺らめくような影だった。
しかしHさんがカメラを下ろして肉眼で見ると、そこには何もなかった。
気のせいかレンズのせいか、Hさんは首を傾げた。
Hさんが持っていた懐中電灯の光が、突然ちらつき始めた。
闇がさらに深まる中、「カタン…カタン…」という音は、もうすぐそこまで来ているように聞こえる。
その時、Hさんの耳元で微かな「ウ、ウ…」というような、聞き取れないほどの囁き声がした。
Hさんは恐怖で全身が硬直した。
隣にいたFさんも同様で、顔は真っ青だった。
二人は言葉もなく、必死で来た道を駆け戻った。
足元を水たまりが跳ねる音と、自分たちの荒い息遣いだけがトンネルに響く。
鉄板の隙間から外へ出た瞬間、背後から聞こえていた「カタン…カタン…」という音も、あの囁き声もピタリと止んだという。