都心から離れた祖父母の家は、広い庭と、そこにある古びた物置が特徴だった。
Kさんは長期休暇でその家に帰省し、久しぶりの田舎の静けさを満喫していた。
しかしその静けさは、ある夜破られることになる。
真夜中、Kさんは物置のドアがカタカタと鳴る音で目を覚ました。
風の強い日ではない。
祖父はもう深い眠りについているはずで、この家にはKさん以外に起きている人間はいない。
そのはずだった。
最初は気のせいかと思ったが、音は次第に大きさを増していく。
まるで誰かが内側からドアを動かしているかのように。
Kさんは布団を被り直し、聞かないふりをしようとしたが、音がうるさくてそれどころではない。
いてもたってもいられなくなり、Kさんはそっと布団を抜け出した。
廊下を伝って縁側へ行き、そこから庭に出て物置へ近づく。
闇に包まれた物置は昼間とは違う、異様な雰囲気に感じられる。
ドアの音は止んでいた。
しかしKさんは物置の隙間から、中に何かいる気配を感じた。
それは人間ではない、異様な気配だった。
肌を粟立たせるような、冷たい空気がそこから漏れている。
Kさんは震えながら、物置のドアの小さな隙間から中を覗いた。
中は真っ暗で何も見えない。
しかし、目を凝らすと奥の暗闇の中にうっすらとだが、黒い塊のようなものが見えた。
それは動かない。ただそこにいる。
それだけのことが、Kさんの全身を恐怖で縛り付けた。
どれくらいの時間そうしていたか分からない。
Kさんが息を潜めていると、その黒い塊がゆっくりと動いた。
まるで地面を這うかのように、Kさんが覗いている隙間の方へと、じわりじわりと近づいてくる。
Kさんは思わず息を呑み、反射的に顔を引いた。
その瞬間、物置のドアが、ギィィィ…と、重い音を立てて開いた。
Kさんは一瞬、目を閉じた。
再び目を開けると、物置のドアは大きく開いていて、中にはもう何もいない。
安堵したのも束の間、Kさんはすぐにその何かが物置から出てきて、家の敷地内を徘徊していることに気づいた。
縁側のすぐ脇を音もなく、黒い影がゆっくりと移動している。
それは庭の木々の間を縫うように、家の周りを巡っているようだった。
Kさんは物置の影に隠れ、息を殺してその様子を見ていた。
影は家をぐるりと一周すると、再び物置の方へ向かいそのまま中に消えていった。
物置のドアがスゥーッと、静かに閉まる音がした。
その夜、Kさんは一睡もできなかった。
翌朝、物置のドアは固く閉ざされ、まるで何事もなかったかのように感じられた。
しかし、Kさんはあの夜の出来事を決して忘れることはできなかった。
そして、物置の奥には今もあの黒い影がいるのではないか、と思うようになったという。