
友人のKさんが大学生だった頃の話。
Kさんは大学の夏休みを利用して、実家のある田舎に帰省していた。
都会の騒がしさから離れ、久しぶりに味わう静けさは心地よかった。
夜になると街灯の少ない道は漆黒に染まり、虫の声だけが響く。
Kさんはその日もコンビニへ行くために、見慣れた夜道を歩いていた。
いつもの道だ。そう思っていた。
コンビニまでの道のりは、いつもなら10分もかからない。
しかし、その夜は妙に時間がかかっているような気がした。
足元を照らす街灯の光は頼りなく揺れ、道の先をぼんやりと照らすだけ。
家々の明かりもまばらで、ほとんどの家は真っ暗だ。
その時だった。
ふと道の真ん中に何か立っているのが見えた。
街灯の光が届かない、ちょうど影になっている場所だ。
その人は街灯の光が届くか届かないかの、丁度真ん中に立っているのが分かった。
シルエットは確かに人間だ。
しかし、その背丈は尋常ではなかった。
軽く2mは越えてるんじゃないかと思うほど高く細い。
Kさんは足がすくんだ。
コンビニへ行くという目的も忘れ、ただその場に立ち尽くす。
逃げ出したい。そう思ったが足が動かない。
その人は正面を向いているのか、背中を向けているのかも暗くて分からない。
だが、Kさんはその人が、自分に気づいていることをなんとなく理解した。
どれくらいの時間が経っただろうか。
数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない。
その人がゆっくりと、本当にゆっくりと首を回し始めた。
ギギギ、と何かが軋むような音が、Kさんの耳に届いた気がした。
そしてゆっくりとこちらに向かって歩いてくる…。
やがて街灯の光が、その人の顔をわずかに照らし出した。
そこに顔はなかった。
いや、顔がないわけではない。
それはのっぺりとした、ただの皮膚のような表面だった。
目も鼻も口も、何もかもがそこにはなかった。
ただ真っ平らな、人間の顔の形をした何かが、Kさんを真っ直ぐに見据えている。
Kさんの全身に鳥肌が立った。
その人がだんだんとKさんの方へ近づいてくる。
その動きは人間が歩くような滑らかなものではなく、まるで関節が外れているかのようにぎこちなく、不自然だった。
Kさんはその瞬間、全身の凍り付いていた感覚が解き放たれたように、全力で走り出した。
コンビニとは逆方向、実家へ向かってただひたすらに走る。
後ろを振り返ることはできなかった。
振り返ったら、きっとその人がすぐそこにいるような気がしたからだ。
家に着き鍵を閉め、息を切らしながら電気をつけた。
窓の外は相変わらず真っ暗だった。
それから数日間、Kさんは夜道を歩くことができなくなった。
あの夜、道の真ん中に立っていた何かが、今でもまだいるんじゃないかと思ってしまうそうだ。