
大学のサークル仲間と、山奥にある古い山小屋に泊まりに来たMさんたち。
夜、みんなで囲炉裏を囲み、酒を飲みながら馬鹿話で盛り上がっていた。
窓の外は真っ暗で、木々を揺らす風の音が響いている。
ちょっとした肝試し気分で、誰かが「この山、昔から変な噂があるよな」と言い出した。
幽霊や行方不明者の話など、いつもの与太話だ。
みんなは笑って流していたが、Mさんは漠然とした胸騒ぎを覚えていた。
ふと、窓の外に小さな光がチラッと見えた。
オレンジ色をした、弱い光。
まるで誰かが遠くで懐中電灯を振っているようだった。
しかし、こんな深夜に登山者がいるはずがない。
Mさんは気になって「ちょっと見てみる」と立ち上がった。
仲間の一人が「やめとけ、ただの獣の目だろう」と言ったが、Mさんはスマートフォンを手に窓に近づいた。
スマートフォンのライトを点け、ガラス越しに外を照らした。
光は森の奥、木々の間で揺れていた。
だがMさんがライトを動かすと、その光も同じように動く。
まるでMさんの動きを真似しているかのようだった。
気味が悪くなってライトを消すと、向こうの光もスッと消えた。
「なんだあれ…」とMさんは呟き、もう一度ライトを点ける。
するとまたあの光が現れた。今度は先ほどより少し近い。
試しにライトを右に振ると、向こうの光も右に動く。
左に振ると、左に。
完全にMさんの動きに合わせてくる。
仲間たちも異変に気づき、窓に集まってきた。
「何だよ、あれ…」と誰かが震えた声で言った。
Mさんはスマートフォンを握りしめながら、「こっちを見ている…絶対、俺たちを見ている」と呟いた。
光はただの光ではない。
そこに何か得体の知れないものがいる。
覗かれているという感覚が、Mさんの背筋を凍らせた。
「やめろよ、M!消せって!」と仲間が叫んだが、Mさんはもう止められなかった。
何度もライトを点けたり消したりを繰り返す。
すると光がどんどん近づいてきた。
木々の間を抜け、まるで宙に浮いているかのようにスーッと。
ついに山小屋のすぐ近く、窓から10メートルほどの所まで来た。
光は一つではなかった。
よく見ると、2つ、3つ…いや、もっとたくさんの小さな光がチラチラと揺れている。
まるで無数の目がこちらを睨んでいるようだった。
突然、窓ガラスをバン!と叩く音がした。
みんなは叫び声を上げて後ずさった。
Mさんのスマートフォンが手から滑り落ち、ライトが消えた。
その瞬間、窓の外の光も全て消えた。
真っ暗な静寂が訪れた。誰も動けず、息を殺して窓を見つめていた。
しかし、しばらくして再びあの光が現れた。
今度は窓のすぐ外だった。
ガラス越しに、ぼんやりした光が揺れている。
そこに人の形のような影が見えた気がした。
いや、影ではない。何か…顔のようなものが、ガラスに張り付くようにこちらを見ていた。
「見るなよ!」とMさんが叫んだ瞬間、電気がバチッと音を立てて消えた。
山小屋の中は真っ暗になった。
Mさんは床に落ちたスマートフォンを必死で探した。
やっと見つけてライトを点けると、窓の外は何もなかった。
光も影も、全て消えていた。
だが、ガラスには無数の細かい傷が残されていた。
まるで何か鋭いもので引っかいた跡のように。
その夜、誰も眠れなかった。
朝になって急いで山を下りたあと、仲間の一人が後で調べてみたところ、その山小屋は昔、遭難者たちが助けを求めて彷徨った場所だったらしい。
あの光は、助けを求める合図だったのだろうか。