怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

ひとり、会議に残っている女性

深夜のオフィスで、資料をまとめていたTさんの話。

会社は静まり返っていて、時計は0時を回っていた。

オフィスの中はエアコンの低いうなり声だけが響いている。

 

ふと、廊下からカタカタとキーボードを叩くような音が聞こえてきた。

こんな時間に誰かいるのか?同僚はみんな帰ったはずだ。

気になって音のする会議室の方へ向かった。

 

ガラス張りの会議室のドア越しに、ぼんやりした人影が見える。

女の人が一人、テーブルに座って資料を手に持っている。

その前には古いノートパソコンが置かれていた。

長い髪が肩にかかっていて、時折うなずきながら何か呟いているようだった。

Tさんは「あれ、Kさん残っていたのか?」と思ったが、Kさんは今日、早退していたはず。

誰だ?不思議に思いながら、ノックしてドアを開けた。

「すみません、こんな時間に…」

瞬間、言葉が止まる。

会議室は真っ暗。誰もいない。

資料もノートパソコンも、さっき見た女の人の気配すら消えている。

背筋がゾワッとした。

電気は消えていたはずなのに、さっきまで確かに人影が見えた。

 

慌てて電気を点けると、会議室はいつも通り。

テーブルの上には何もない。

ただ、部屋の隅になぜか一枚の資料が落ちている。

拾ってみると、10年前の日付が入った古い企画書。

Tさんが入社する前のものだった。

 

気味が悪くなって急いでデスクに戻ったが、頭からさっきの光景が離れない。

女の人のうなずく姿、資料を握る白い手。

何だったのか、あれは。

 

次の日、Tさんは先輩のSさんにその話をした。

Sさんの顔が一瞬こわばる。

「それ…マジかよ。実はさ、昔この会議室でYって先輩が過労で倒れたんだ。

深夜まで一人で資料を作っていて…そのまま帰らぬ人になった。

噂じゃ、彼女の姿が今でも出るって」

Tさんは笑って誤魔化したけど、背中が冷たくなった。

それ以来、夜のオフィスで会議室の前を通ると、ガラスに映る自分の姿が一瞬、資料を手にうなずいている女が見える気がするという。