紅葉が山々を鮮やかに染める季節。
数人の登山好きのSさんたちは、人気の少ない山を訪れていた。
いつもなら問題なく予定通りに進められたのだが、この日は少しばかり計画が狂っていた。
道中で思わぬ悪天候に見舞われたせいで、予定よりも大幅に到着が遅れてしまったのだ。
日が暮れかけ、山道はみるみるうちに暗闇に包まれ始めていた。
Sさんたちは焦りながら、地図に記された古い山小屋を目指した。
ようやく辿り着いた山小屋は想像以上に古びており、今にも朽ち果てそうなほどだった。
扉を開けると中は埃っぽく、ひんやりとした空気が漂っている。
窓は小さく外の光もほとんど届かないため、小屋の中は薄暗かった。
明かりをつけようとSさんが懐中電灯を取り出した、その時だった。
小屋の片隅に、場違いなものが置かれているのが目に入った。
それは小さな子供用の三輪車だった。
赤錆びた金属のフレームに、色褪せたプラスチックの座面。
こんな山奥の、それも朽ちかけた山小屋になぜ子供用の三輪車があるのか。
Sさんたちは皆、首を傾げた。
誰かの忘れ物だろうか?しかしこんな場所に子供が来るはずもない。
奇妙な光景だったが彼らは疲れ切っていたため、深く考えることなくその日は眠りにつくことにした。
夜中、Sさんは微かな音で目が覚めた。
寝袋の中で体を起こし耳を澄ます。
最初は風の音かと思ったのだが、どうも違う。
その音は小屋の外から聞こえてくるようだった。
子供が笑うような、甲高く、それでいてどこか冷たい声が、遠くから微かに聞こえる。
ひゅーひゅーという風の音に紛れているが、確かに子供の声だ。
Sさんは恐怖を感じたが、寝ぼけているのだろうと自分に言い聞かせ、再び目を閉じた。
翌朝、夜が明けて小屋の中が明るくなると、Sさんははっとした。
山小屋の入り口、ちょうど扉を開けた真正面にあの三輪車が置かれているのだ。
Sさんは夜中に聞こえた子供の笑い声を思い出し、ゾッとした。
「おい、この三輪車、誰か動かしたか?」
Sさんは仲間たちに尋ねた。
しかし、皆が口々に「いや、触ってない」「動かしてない」と答える。
その中で、登山仲間のTさんが顔色を変えて言った。
「俺、夜中に変な音を聞いたんだ…。キコキコって…。
ちょうどこの三輪車の車輪が軋むような音だった」
Sさんたちは、一刻も早くこの山小屋を出たいという気持ちでいっぱいになった。
彼らは荷物をまとめ、三輪車には触れることなく山小屋を後にした。
下山後も山小屋の三輪車のことは、Sさんたちの間で度々話題になるという。