怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

山小屋の奇妙な忘れ物

紅葉が山々を鮮やかに染める季節。

数人の登山好きのSさんたちは、人気の少ない山を訪れていた。

いつもなら問題なく予定通りに進められたのだが、この日は少しばかり計画が狂っていた。

道中で思わぬ悪天候に見舞われたせいで、予定よりも大幅に到着が遅れてしまったのだ。

 

日が暮れかけ、山道はみるみるうちに暗闇に包まれ始めていた。

Sさんたちは焦りながら、地図に記された古い山小屋を目指した。

ようやく辿り着いた山小屋は想像以上に古びており、今にも朽ち果てそうなほどだった。

扉を開けると中は埃っぽく、ひんやりとした空気が漂っている。

窓は小さく外の光もほとんど届かないため、小屋の中は薄暗かった。

 

明かりをつけようとSさんが懐中電灯を取り出した、その時だった。

小屋の片隅に、場違いなものが置かれているのが目に入った。

それは小さな子供用の三輪車だった。

赤錆びた金属のフレームに、色褪せたプラスチックの座面。

こんな山奥の、それも朽ちかけた山小屋になぜ子供用の三輪車があるのか。

Sさんたちは皆、首を傾げた。

誰かの忘れ物だろうか?しかしこんな場所に子供が来るはずもない。

奇妙な光景だったが彼らは疲れ切っていたため、深く考えることなくその日は眠りにつくことにした。

 

夜中、Sさんは微かな音で目が覚めた。

寝袋の中で体を起こし耳を澄ます。

最初は風の音かと思ったのだが、どうも違う。

その音は小屋の外から聞こえてくるようだった。

子供が笑うような、甲高く、それでいてどこか冷たい声が、遠くから微かに聞こえる。

ひゅーひゅーという風の音に紛れているが、確かに子供の声だ。

Sさんは恐怖を感じたが、寝ぼけているのだろうと自分に言い聞かせ、再び目を閉じた。

 

翌朝、夜が明けて小屋の中が明るくなると、Sさんははっとした。

山小屋の入り口、ちょうど扉を開けた真正面にあの三輪車が置かれているのだ。

Sさんは夜中に聞こえた子供の笑い声を思い出し、ゾッとした。

「おい、この三輪車、誰か動かしたか?」

Sさんは仲間たちに尋ねた。

しかし、皆が口々に「いや、触ってない」「動かしてない」と答える。

その中で、登山仲間のTさんが顔色を変えて言った。

「俺、夜中に変な音を聞いたんだ…。キコキコって…。

ちょうどこの三輪車の車輪が軋むような音だった」

Sさんたちは、一刻も早くこの山小屋を出たいという気持ちでいっぱいになった。

彼らは荷物をまとめ、三輪車には触れることなく山小屋を後にした。

 

下山後も山小屋の三輪車のことは、Sさんたちの間で度々話題になるという。