
とある地方の小さな神社で、宮司を務めるKさんが体験した話。
Kさんの務める神社は、古くからその土地を見守ってきた由緒ある場所だった。
しかし、他の神社と少し違う点があった。
それは代々、人々が持ち込む「曰く付きの品々」を預かる役目も担っていたことだ。
それらの品々は、持ち主にとって不幸を呼び込む、あるいは奇妙な現象を引き起こすと言われるものがほとんどで、Kさんはそれらを「呪物」と呼んでいた。
神社の奥には、そうした呪物を保管するための特別な蔵があり、厳重に管理されていた。
ある年の秋、遠くから来た人から一体の人形が持ち込まれた。
それは古い日本人形だった。
持ち主は祖母の遺品整理で見つけたのだが、その人形を家に置いてから、夜な夜な部屋の隅から奇妙な音が聞こえるようになったという。
誰もいないはずの場所から、かさかさと紙が擦れるような音や、微かな息遣いのようなものが聞こえるのだと、怯えた様子でKさんに訴えた。
Kさんは人形を丁寧に受け取り、いつものように蔵の奥に納めた。
その夜のことだ。
Kさんは神社の社務所で、遅くまで事務作業をしていた。
時刻はもう日付が変わる頃。
他に人の気配はない。
ふと、社務所の近くにある蔵の方から、微かな音が聞こえた気がした。
カサ、カサ、と何か乾いたものが擦れるような音。
Kさんはすぐに昼間に預かった人形のことを思い出した。
まさか、と一瞬背筋が冷たくなるのを感じた。
気のせいだ、風で木々の葉っぱが擦れる音だ、と思い作業に戻った。
しかしその音は再び聞こえた。今度は少しだけ大きくなっている。
カサ、カサ、カサ。
規則的ではないその音は、まるで何かが蔵の中で蠢いているかのようだった。
Kさんは筆を止め、蔵の方に意識を集中した。
音は確かに蔵の中から聞こえる。
耳を澄ますとその音に混じって、ごく微かに「ひゅう…」というような、息を吸い込むような音が聞こえた気がした。
まさか泥棒か!?
Kさんは立ち上がり、ゆっくりと蔵の方へ向かった。
蔵に近づくごとに、カサカサという音がより聞こえるようになる。
蔵の扉の前に立ち、恐る恐る扉に手をかけ、鍵がかかっていることを確認した。
もちろん固く閉ざされている。
Kさんは首を傾げながら、その場を離れた。
その日はそれきり音は聞こえて来なかった。
翌朝、Kさんは蔵の鍵を開け、中を調べた。
蔵の中は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。
呪物たちが収められた棚に異常はない。
しかし、昨日納めた日本人形が収められている箱に目をやった時、Kさんは息を飲んだ。
箱の蓋がわずかにずれている。
Kさんは恐る恐る蓋に触れ、そっと開けてみた。
人形は、昨日Kさんが置いた時と同じように、きちんと収まっているように見えた。
だが、人形の着物の袖が、ほんの少しだけ乱れているような気がした。
そして人形の顔は、昨日は見えなかったような、うっすらとした笑みを浮かべているように見えたのだ。
Kさんはその人形に対し、いつもより念入りに魂抜きの儀式を行った。
数日後、境内の隅でお焚き上げを行ったそうだ。