深夜、Fさんが踏切を通った時の話。
レポートに集中していたら、いつの間にか日付が変わってしまっていたのだ。
小腹が空き、アパートから一番近いコンビニへと夜食を買いに向かうには、必ずあの踏切を渡る必要があった。
町中にあるその踏切は、昼間は学生や買い物客が行き交う賑やかな場所だが、深夜ともなれば人通りはなくなり、少し不気味な感じになる。
その日、レポートを終えてへとへとになったFさんは、コンビニで夜食を買うため、いつものように踏切へと向かっていた。
時計は午前2時を少し回ったところ。
踏切の警報音が鳴り響き、遮断機がゆっくりと降りてくる。
Fさんはいつも通り、警報音を聞きながらスマートフォンの画面を眺めていた。
やがて遠くから電車の走行音が聞こえ始め、それが少しずつ近づいてくる。
ゴトゴトと重い音を立てながら、真っ暗な車体が目の前をゆっくりと通り過ぎていく。
通過する風がFさんの髪を揺らし、その轟音は全てをかき消すようだった。
Fさんは何気なく、電車の車窓をぼんやりと目で追っていた。
明かりの灯った窓は先頭車両にしかなく、ただ真っ黒なコンテナが連なっている。
その時だった。
最後のコンテナが通り過ぎようとした瞬間、Fさんの視界に何かが映り込んだ。
それはコンテナとコンテナのわずかな隙間だった。
真っ暗なはずのその隙間の奥に、ぼんやりと浮かび上がる人影のようなものだった。
ほんの数秒のことで、はっきりと形を認識できたわけではない。
しかし、確かに人のような、それも顔が判別できないほどに曖昧な黒い塊が、暗闇の中に立っているように見えたのだ。
Fさんは目を擦った。
疲れているせいか、幻でも見たのだろうか。
だがその影は、Fさんをじっと見つめているかのように感じられた。
電車の速度は落ちることなく、あっという間にその人影を乗せた車両は視界から消え去った。
踏切の警報音も止まり、遮断機がゆっくりと上がっていく。
あたりには再び、深夜の静寂が戻ったのだが、今見たものが気になって仕方がない。
今のは何だったのだろう。
翌日、Fさんは大学の友人にこの話をしてみた。
しかし、誰もが「疲れてるんだよ」「見間違いじゃない?」と笑って取り合ってくれなかった。
Fさんも、きっとそうだろうと自分を納得させようとした。
けれど、一度見てしまったあの人影が、頭の片隅にこびりついて離れない。
それ以来、Fさんは夜中の踏切を通るたびに、電車の窓に映り込むかもしれない何かを探してしまうようになったという。