
Kさんが小学四年生だった頃に体験した話。
Kさんの家族は、父親の転勤で古く大きな屋敷に引っ越してきた。
新しい家は広くて庭も手入れが行き届かず荒れていたが、Kさんはどこかワクワクしていた。
探検好きのKさんにとって、この家は宝の山に見えた。
引っ越して間もない頃、Kさんは二階の物置で埃を被った木箱を見つけた。
中には古びた人形が入っていた。
それはずいぶん昔に作られた日本人形だった。
髪は黒く、顔は白く塗られ、着物は少し色褪せていた。
人形には何かを書き込んだような跡があったが、Kさんは気にも留めなかった。
一人で遊ぶことに飽きていたKさんは、その人形を見つめながら、ふと、学校で聞いた「ひとりかくれんぼ」を思い出した。
人形を鬼にして自分が隠れる。そんな遊びだった。
Kさんは早速、インターネットでひとりかくれんぼのルールを調べた。
親がまだ帰宅していないのを確認し、Kさんはキッチンで人形の体に炊いた米を詰めた。
そして赤い糸で人形をぐるぐる巻きに縛り、名付けた。
「ミサキ」
Kさんは人形を風呂場に置いた。
目を閉じて十まで数える。
「ミサキ見つけた!」
Kさんはおもちゃのナイフを手に、人形の体を刺した。
それから風呂桶に水を張って人形を沈め、「次はミサキが鬼だからね」と言った。
自分の部屋に戻り押し入れに隠れる。
時計の秒針の音だけが聞こえる。
すると…聞こえないはずの音が微かに聞こえ始めた。
ドス…ドス…。
廊下を歩くような、重たい足音だ。
ミサキが来た、そう思ったKさんは息を殺した。
足音は徐々に近づいてくる。
そしてKさんの部屋の前で止まった。
ギィィ…。
ゆっくりとドアが開く音がする。
押し入れの扉の隙間から、Kさんは外の様子をうかがった。
暗闇の中に、うっすらと人影が見えた。
それは、風呂場に置いた人形の「ミサキ」だった。
人形はゆっくりと部屋の中に入ってきて、Kさんの押し入れの前で止まった。
そして微かに、何かが囁くような声が聞こえた。
それはよく聞き取れない内容だったが、Kさんの心を凍らせた。
「…K、どこ?」
聞き取れる分だけだと、そう聞こえた気がした。
Kさんは押し入れの中で震えた。
足音は部屋の中を動き回り、何かが引きずられるような音も聞こえる。
Kさんは、人形が本当に生きているかのような錯覚に陥った。
恐怖で身動きが取れない。
押し入れの隙間から、ミサキの目がじっと自分を見つめているように感じた。
どれくらいの時間が経ったのか、Kさんの意識は朦朧としていた。
その時、ドアの開く音がした。
それは母親が帰宅した音だった。
母親の声が聞こえる。
「K、ただいまー…あれ?寝ちゃってるのかな?」
母親はKさんを探して家の中を歩き回っていた。
やがてKさんの部屋にたどり着き、部屋の電気をつけた。
するとKさんの押し入れのすぐ目の前、床にミサキが転がっているのが見えた。
「あら?何?この人形、随分古いわね」
そう母親が囁いた時、Kさんは押し入れから出て母親にしがみついた。
Kさんはその後、さっきまでの出来事を話した。
母親は信じていない様子だったが、Kさんが怖がってるのは察したのであろう。
その日からその人形や他の人形は見なくなったという。