デザイン事務所で働くKさんは、集中すると無意識に窓の外に視線を向ける癖があった。
高層ビルの窓から見える夜景は、心を落ち着かせるにはちょうどいい。
ある夜、Kさんがいつものように窓の外をぼんやりと眺めていると、ガラスに映る自分の顔の横に、ぼんやりと巨大な目のようなものが映り込んでいることに気づいた。
それはあまりにも巨大で、まるで窓の外に巨大な生物が貼り付いているかのようだった。
しかしよく見ると、それはガラスの向こう側ではなく、表面に張り付くように映っているように見えた。
網膜に焼き付いた残像か、疲れているせいで幻覚を見ているのか。
Kさんは目をこすりもう一度見直したが、やはりその巨大な目はそこにあった。
Kさんはそっと事務所内を見渡した。
すると、Kさんのように窓を凝視している先輩のRさんがいた。
RさんもKさんと同じ方向、つまり窓を見つめている。
Kさんは恐る恐るRさんに声をかけた。
「Rさん、何か…見えますか?」
Rさんは驚いたように振り返り、Kさんの顔を見てすぐに元の窓へと視線を戻した。
「ああ、やっぱりKさんも見えたんだな」
Rさんは腕を組み、窓に映る巨大な目をじっと見つめながら、低い声で話し始めた。
「あの目…昔、ここにいたTさんの目にそっくりだ」
Tさん。
その名前を聞いてKさんは背筋が凍りついた。
Tさんは数年前にこの事務所にいた、優秀なデザイナーだった。
しかし、今の部長に蹴落とされ、理不尽な形で事務所を辞めざるを得なくなったと、Rさんが以前話していたのを思い出す。
Tさんは去り際に「いつか必ず、仕返ししてやる」と言い残したとRさんは語っていた。
「Tさんのあの目は、獲物を捕らえる蛇のような目だった」
Rさんはそこで言葉を区切り、窓に映る目をもう一度確認した。
「これは…何か悪いことが起こるんじゃないか」
Rさんの言葉は、Kさんの不安をさらに掻き立てた。
その夜、KさんとRさんは漠然とした恐怖に包まれたまま、それぞれの仕事を終えた。
数日後、部長が体調不良を訴え始めた。
初めは軽い風邪だと思われていたが、次第に顔色は悪くなり、ろれつが回らなくなるなど明らかにおかしかった。
その間も事務所の窓には、あの巨大な目が時折映り込んでいた。
誰もが口には出さないが、その目のことと部長の体調不良を結びつけて考えていた。
さらに数日後、部長は突然会社を辞めてしまった。
理由はよく分からないが、故郷の田舎に引っ越したそうだ。
部長が去ってから、あの巨大な目が窓に映ることはなくなった。