
地方都市で解体業を営む、M社長さん(以下Mさん)の会社で起こった話。
Mさんの会社は、市から公共工事も請け負うことがあり、その日も市から依頼された案件で、森の奥にひっそりと佇む古い家屋の解体作業をすることになった。
現場は人里離れた深い森の中。
重機が入りにくい場所も多く、手作業で木々を伐採しながらの作業は骨が折れる。
解体初日、古い家屋の土台を剥がしていると、思いがけないものが見つかった。
地下だ。
図面にもない地下室に、作業員たちは少し戸惑いながらも解体を進めた。
すると地下室の奥に、ドアのない四角い構造の部屋があった。
中はひんやりとしていて、壁にはおびただしい数の御札がびっしりと貼られている。
その奥の壁際には簡素な祭壇のようなものが設けられ、そこには御札がたった一枚だけ置かれた、古びた木の箱が置かれていた。
「これ、どうしますか?」
作業員の一人がK監督に尋ねた。
K監督は市に問い合わせたが、「持ち主に確認するので他の作業を進めてくれ」という指示だった。
やむを得ず、彼らはその箱をそのままにして、他の部分の解体を進めた。
二日後、K監督の携帯に市から連絡が入った。
「その箱は捨ててくれ」とのことだった。
しかし、ただ捨てるのも気が引けたのか、K監督は一旦その箱を保管することにし、現場に仮設したプレハブの事務所に置いておくことにした。
翌朝、現場に到着した作業員たちは、まずプレハブの中に入った。
すると、昨日確かに置いたはずの木の箱が、跡形もなく消えていた。
「あれ?箱ねえな。どこやったんだ?」
作業員たちは首を傾げたが、特に気に留めることもなく、「まあいいか」とばかりに作業の準備を始めた。
その時、あることに気づいた。
今日のバイト作業員が二人来ていない。
サボったか面倒になって逃げたのだろうと、特に気にすることなくその日の解体作業を続けた。
さらに次の日の朝、現場に現れたK監督の顔は青ざめていた。
「おい、例の箱だが…」
K監督は重い口を開いた。
どうやら箱を持っていったのは、あのサボったと思っていたバイトのAさんとBさんだったらしい。
その夜、二人は持ち帰った箱を開けてみたそうだ。
すると中には古びた布に包まれた、人のものらしき骨のようなものが入っていたらしい。
その夜から二人は悪夢にうなされるようになり、高熱を出し、体調は悪化の一途を辿った。
現在二人とも入院しており、意識が朦朧としている状態だという。
作業員たちは血の気が引くのを感じた。
あの箱はただの古い箱ではなかった。
何か、とてつもないものが封じられていたに違いない。
K監督はMさんに連絡し、状況を説明した。
Mさんもすぐに市に連絡を取り、市も事態の深刻さを理解し、すぐに専門の人間を派遣すると約束した。
数日後、現場に現れたのは、市に務めるという神職のSさんだった。
Sさんは消えた箱が元あった地下室の祭壇跡と、プレハブの事務所を丁寧に調べた後、K監督に静かに語った。
「これは、ある種の封じ込めだったのでしょう。
元々この地にあった"穢れ"を、あの箱に閉じ込めていた。
それを解体してしまい、封印を解いてしまった。
そして箱を開けてしまった二人は、その穢れの影響を直接受けてしまったのです」
Sさんは現存する資料と現場の状況から、大規模なお祓いを行うことを提案した。
Mさんはもちろん同意した。
数日間にわたる厳かで大規模なお祓いが、家屋の跡地とその周囲の森で行われた。
S神職さんは、バイトの二人が入院している病院にも赴き、彼らにもお祓いを施した。
お祓いの後、奇妙な悪夢や体調不良はぴたりと止まったという。
Mさんの会社は二度とあの土地には近づかず、その場所は後に厳重に立ち入り禁止の看板が立てられたそうだ。