駅ビルの警備員をしていたAさんの話。
Aさんはいつも通り、閉店後の巡回をしていた。
深夜1時を過ぎた頃、1階の正面入口にある自動ドアが、誰もいないのに何度も開閉を繰り返す。
カシャン、と開いてはゆっくりと閉まる。
そしてまた、カシャン、と開く。
Aさんは最初、センサーの誤作動かと思い上司に報告した。
後日、修理業者が来たが、どこにも異常は見当たらないという。
それでもその自動ドアは、閉店後の深夜1時過ぎになると決まって開閉を繰り返す。
この奇妙な現象はAさんだけでなく、他の警備員たちも確認済みで、皆が首を傾げていた。
Aさんは単なる機械の不具合だと思っていた。
しかし、日を追うごとにその自動ドアの動きはより奇妙になっていった。
時には完全に開きっぱなしになることもあった。
まるでそこに誰かが立っているかのように。
Aさんがその場を離れてしばらくすると、また開閉を始める。
ある晩、Aさんが自動ドアの前で様子を見ていると、カシャンと開いたドアの向こうに、一瞬だけ人のような黒い影がよぎった気がした。
Aさんは反射的にその場に駆け寄ったが、開けた場所には人影は見当たらなかった。
そこは隠れる場所などない、だだっ広い空間だ。
Aさんは懐中電灯を向け目を凝らしたが、誰もいない。
その影の正体は分からないまま、自動ドアの奇妙な動きは続き、Aさんはその度に奇妙な寒気を感じた。
その日以来、自動ドアの動きはさらに不気味さを増した。
Aさんが巡回でドアに近づくと、Aさんが到着するよりも早く、ドアがカシャンと開くようになったのだ。
まるでAさんの足音を察知しているかのように、あるいはAさんを「待っている」かのように。
そしてAさんがその場を離れると、ドアはゆっくりと閉まり、またすぐにカシャンと開く。
ある深夜、いつものように自動ドアが開きっぱなしになった。
Aさんは急いで駆け寄りその場を眺めていると、開いたドアの向こうから、冷たい空気が流れ出てくるのを感じた。
生ぬるい夏の夜にもかかわらず、その空気は肌を刺すような冷たさだった。
そしてその冷気の中に、微かに何かが「いる」という確かな感覚があった。
視覚的な情報は一切ない。
だが、皮膚が粟立つような嫌悪感がAさんを包み込んだ。
それは言葉にできない、見えない何かの気配だった。
Aさんは、このままでは自分がどうにかなってしまうと感じた。
警備の任務があるとはいえ、この恐怖に耐え続けることはできない。
Aさんは意を決して、自動ドアの電源を落とすことを決めた。
通常、緊急時以外は触らないメインブレーカーの場所へ向かう。
震える手でブレーカーを落とすと、自動ドアの動きはぴたりと止まった。
静寂が訪れ、あの冷たい気配も消え去ったように感じた。
翌朝、Aさんは責任者に事の顛末を報告した。
怒られる覚悟だったが、責任者はただ「そうか」とだけ言い、Aさんを咎めなかった。
その日から、Aさんはその駅ビルの警備から外され、別の場所へ異動になった。
自動ドアがその後どうなったのか、Aさんは知らない。