Gさんは一人で山に登るのが趣味だった。
その日も県境に近い、あまり知られていない低山を選び、静かな登山道をのんびりと歩いていた。
昼を少し過ぎた頃、登山道の脇に妙なものが目に入った。
平べったい石が等間隔に並んでいる。
ひとつひとつは手のひらよりやや大きく、形も色も不揃い。
しかしまっすぐに何十枚も並んでいて、まるで「この上をどうぞ」とでも言われているかのように感じられた。
Gさんは少し迷ったが、何となく面白く思ってその石の上を歩き始めた。
最初はただの遊び心だった。
けれど10枚、20枚と進むうちに、なんとなく引き返すタイミングを逃していた。
足元ばかり見ていたせいで、気づけば登山道をそれている。
そのときだった。
石の上に、白っぽい何かがこびりついているのが目に入った。
乾いた泥のようなものだった。
けれど泥にしては妙に粉っぽく、ザラザラとした質感で、何より不自然だったのは━━それがまるで這った跡のように、くねくねと広がっていたことだった。
Gさんは背中に寒気を感じた。
「動物か?」と思ったが爪痕も毛もない。
泥は石の列に沿って途切れ途切れに続き、所々には指先でなぞったような細くて浅い凹みもあった。
何かが石の上を這っていた。人のような何かが。
「気のせいだ」と思いたかったが、次の瞬間━━石の列の終点に1枚だけ裏返った石があった。
そこには乾いた泥と一緒に、小さな掌のような跡がついていた。
それは子供の手のような形をしていたが、指の本数が…6本あった。
ぞわり、と全身の毛が逆立つような感覚。
Gさんは我に返ると慌てて登山道へ戻り、下山した。
家に帰り靴を洗おうとすると、靴底の泥が気になった。
乾いて固まっていたが、よく見るとその泥の上に小さな凹みがついていた。
足の裏に何かが触れたかのように。
懐中電灯で照らしながら覗き込む。
するとそこには、5本の指のような細い跡がついていた。
…いや、5本じゃない。6本だった。
Gさんはその靴をそのまま捨てた。
以来、登山の前には必ず塩を撒くようになったという。
彼は今でも言う。
「あれは道しるべなんかじゃなかった。
むしろ、あっちの世界に導こうとしてたんじゃなかろうか…」