怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

登山道に置かれたランドセル

Tさんが青白く明け始めた早朝登山をした時の事。

 

平日ということもあって、登山道には他に誰もいなかった。

鳥の声が響く中、霧のかかった林道を黙々と歩いていたとき、ふいにそれが視界に入った。

道の真ん中にぽつんと置かれた…ランドセル。

赤黒い色味が新しい。

擦れた跡もなく、まるで新品のように見えた。

「なんでこんなところに?」

Tさんは足を止めた。山の中に子供の姿はない。

周囲は木々に囲まれ、民家も学校も遥か遠い。

最初はふざけた登山者が、リュック代わりに持ってきたのかと思ったが、それにしては不自然すぎた。

 

Tさんはおそるおそる手を伸ばした。

その瞬間、ひゅうっと風が吹いて、ランドセルの蓋が「パタン」と開いた。

中には何も━━いや違う。

乾いたどんぐり、細長い葉、薄茶けた花びら…山で拾えるような自然物がぎっしりと詰め込まれていた。

「子供が遊びで拾って詰めたのか?」

と考えていたときだった。

「パタン」

誰も触れていないのに、ランドセルが自分で閉じた。

音もなくゆらりと持ち上がり、そのままずるっと滑るようにして、横の藪の中に消えていった。

木の枝を避けるような動きだった。

葉が少し揺れただけ。

 

Tさんはその場でしばらく呆然としていたという。

まるで見てはいけないものを目撃したような、現実と夢の間にいるような、そんな時間だったと語っていた。

 

お題「百物語(参加型なので一人でいくつ投稿しても可)」