Kさんが友人たちと海沿いをドライブした帰り道のこと。
夜の海岸線は外灯も少なく、波の音だけが遠くから聞こえてくる。
しばらく進むと、古びたコンクリートのトンネルが現れた。
海辺特有の潮風で壁は黒ずみ、どこか湿っているように見えた。
「なんか雰囲気あるな…」
そう思いながらKさんは減速し、車のライトを頼りにトンネルへと入った。
トンネルの中は、ライトに照らされた部分以外は完全な闇。
路面は濡れていて、タイヤが水を踏む音が響く。
そのときだった。
ライトの光がトンネルのちょうど真ん中あたりを照らした瞬間。
壁に何か黒いものが張りついているのが見えた。
それは人の形でも動物の形でもなく、溶けたアスファルトの塊のように不定形で、ぬらりとした光沢を放っている。
「え…?」
目を凝らした途端、その塊がゆっくりと這うように動いた。
壁を伝いこちらに背を向けるようにして、音もなく形を変えている。
Kさんは無意識にアクセルを踏んだ。
車がその横を通り抜ける、一瞬。
助手席側の窓に目が映った。
塊の中にぽっかりと二つの穴が開き、そこから光のない視線だけがこちらを見ていた。
背筋に氷が走る。
視界の端でその目がすっと沈むのが見えた。
振り返る勇気はなく、そのままトンネルを抜け、しばらく無言でハンドルを握りしめていた。