冬のある日、Mさんは学生時代の友人たちと四人で山奥のコテージに泊まった。
そこは小さなスキー場のさらに奥、街の明かりも届かない場所で、雪深い冬には一面が真っ白になる。
夕方に到着したとき、外はすでに薄暗く、雪はしんしんと降り続いていた。
冷気を切り裂くような風が窓を叩き、林の奥は影ばかりが濃く見える。
夜、暖炉に火を入れみんなで食事を囲んだ。
薪がはぜる音と笑い声だけが広い室内を満たしていたが、窓の外は真っ黒な闇で、カーテンを閉め忘れたガラスには雪の白さがぼんやりと映っていた。
その時、Mさんがふと視線を外にやった。
違和感があった。吹き付ける雪の中に何かが立っている。
ガラス越しにぼんやりと形を結んだそれは、背の高い人影だった。
いや、「立っている」というより張りついていた。
ガラスにべったりと貼りつくような姿勢で、こちらを見ている。
Mさんは言葉を失った。
輪郭は人間だが、顔は真っ黒で何もない。
ただ、口だけが大きく裂け笑っていた。
頬のあたりまで裂けたその口は、ガラスを舐めるように歪み、歯の一本一本までくっきりと見えた。
次の瞬間、友人のひとりが振り返り、その異様な笑みを目にした途端、甲高い悲鳴をあげた。
その声が室内に響いた瞬間、影はふっと、雪景色に溶け込むように消えた。
全員が凍りついたまま、しばらく誰も動けなかった。
やがて勇気を振り絞り外に出てみたが、雪の上には足跡どころか、何一つ乱れた跡がなかった。
窓を見ても曇りはなく、ただ夜の闇と雪があるだけ。
その夜、誰も眠れなかったという。
部屋の明かりを消すことすら怖く、暖炉の炎が消えないように薪を継ぎ足し続けた。
それでも深夜になると、不明瞭な音が聞こえた。
ひそやかな声が、雪を隔てた窓の外から伝わってきたような気がした。
翌朝、カーテンを開けると、ガラスに何かが残っていた。
手形だった。
大人の男性の手よりも大きく、指が五本とも不自然に長く伸びていたという。