怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

尾根を這うもの

Kさんは単独での登山が好きで、その日も人気の少ない山の尾根を歩いていた。

 

午後の光が傾き始め、稜線の向こうには岩肌が夕陽に照らされて光っている。

心地よい風に汗を乾かしながら進んでいたとき、ふと視界の端に異様なものが映った。

尾根の先、岩場の上を巨大な蛇のようなものが動いている。

だがそれは蛇にしてはあまりにも奇妙だった。

体は白く、表面は滑らかで鱗が見当たらない。

さらにその動き方が普通ではなかった。

蛇がくねって進むのではなく、直線的に、まるで一本の棒が地面を滑るように、音もなく移動している。

 

ぞっとして足を止め、双眼鏡を取り出して覗いてみた。

するとその白い体の途中途中に、目が並んでいるのが見えた。

小さな点のような目が、何十も規則的に。

そしてその中のひとつが確かにこちらを向いた。

双眼鏡越しに視線がぶつかった瞬間、背中に冷たい汗が流れた。

 

次の瞬間、それは岩場の影にすっと吸い込まれるように消えていった。

風も止み、あたりは不気味なほど静まり返っている。

Kさんはしばらく呆然と立ち尽くしたが、どうしようもなく足を前に進めるしかなかった。

 

翌日、下山前に気になって再びその岩場へ足を運んだ。

そこには確かに何かが通った痕跡が残されていた。

地面の砂や小石が大きく擦られ、直線的な跡が続いている。

だが、蛇のようなものが這った痕とは明らかに違っていた。

まるで巨大なものが、無理やり押しつけられながら滑ったような、不自然な跡。

 

周囲には獣の足跡もなく、ただ削られた岩と乾いた土だけ。

「きっと誰かが、丸太をロープとかで引いてただけだ」

そう自分に言い聞かせながら尾根を離れたが、視線の奥底に今も焼きついている。