Kさんが友人たちと、山中のキャンプ場を使っていた時の事。
その夜は10月の末で冷え込みが強く、皆で焚き火を囲んで談笑していた。
火の爆ぜる音と虫の声が混ざり合い、酒と笑い声で場は和んでいた。
だが、Kさんはふと違和感を覚えた。
焚き火の炎の奥、暗がりの向こうに黒い影が立っているのが見えたのだ。
それは人の形をしていたが、顔がまるで削ぎ落とされたように何もなく、ただ黒い輪郭だけが揺れる炎に浮かんでいた。
最初は仲間の誰かが驚かそうと、そこに立っているのかと思った。
しかし声をかけても返事はなく、ほかの友人たちは相変わらず火を囲んで話し込んでいる。
どうやら誰もその存在に気づいていないらしい。
目を凝らすと、影の足元が妙に不自然だった。
地面に立っているはずなのに、膝から下が土に沈み込んでいるように見える。
しかも影は少しずつ近づいてきていた。
一歩一歩ではなく、炎が揺れるたびに影の揺らめきに合わせ、じわりと距離を詰めてくるのだ。
Kさんはただ焚き火から目を逸らさず、影の動きを見続けていた。
炎が大きくはぜた瞬間、その黒い人型は焚き火のすぐ手前までにじり寄っていた。
びっくりして思わず立ち上がったKさんに、友人たちは驚いた様子で「どうした?」と声をかけた。
友人たちの方を向いた後、もう一度その事を言おうと振り返ったとき、そこにはもう何もいなかった。
翌朝、焚き火跡の灰を片付けていたときのこと。
Kさんは灰の中央に、足跡のような窪みが残っているのを見つけた。
それは土に深く沈んだようにえぐれていたという。