Mさんが友人と泊まりに来ていたのは、山中にある古びた貸しコテージだった。
周囲は深い森に囲まれ、夜になると灯りひとつなく窓の外は真っ暗。
皆が寝静まったあと、まだ眠れずにいたMさんは何気なく窓に目をやった。
するとそこには、巨大な蛾のようなものが貼りついていた。
羽を広げると窓の半分を覆うほどで、最初はその大きさに息を呑んだ。
しかし、さらに異様だったのは羽の模様だった。
左右の羽に描かれた模様が人の顔のようで、しかも、じっと見つめているうちに、その顔の目がゆっくりと動いていることに気づいたのだ。
まるで窓の向こうから、自分を覗き返しているような錯覚に襲われた。
外は漆黒の闇で木の影も見えない。
なのにその蛾だけが、薄く光を放つように浮かび上がっていた。
「珍しい蛾だ」と思い、証拠に残そうとスマホを取り出した。
カメラを構え、シャッターを切ろうとした瞬間だった。
羽の顔が突然、怒りに歪んだように変わった。
目の模様は鋭く吊り上がり、口のような線が裂けるように広がった。
まるで本当に生きた人間が怒鳴りつけているかのような迫力で、Mさんは指が止まった。
次の瞬間、蛾は羽ばたいた。
夜の闇に吸い込まれるようにふっと消え、窓の外には再び闇しか残らなかった。