怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

視界の隅に現れる人影

これは山で測量士として働く、Yさんから聞いた話。

 

Yさんの仕事は、一人で山中を歩き回りながら計測を行うことが多く、誰もいない山の奥で過ごす時間にも慣れていた。

 

その日もいつものように機材を担ぎ、急な斜面を越えて作業をしていた。

午後になると空はどんよりと曇り始め、山全体がうっすらと暗く沈んでいった。

そんな中で、ふと視界の隅に人影のようなものが映った。

はっきりとは見えない。

目を向ければ木々の間に溶け込むように消えてしまう。

Yさんは「気のせいだろう」と思い直し、測量を続けた。

だがしばらくするとまた別の方向に、同じ影が立っている気配を感じた。

確かにこちらを見ているように思えたが、目を凝らした瞬間には消えてしまう。

 

繰り返すうちに、ただの錯覚ではないように思えてきた。

さらに妙なことに、その影は次第にYさんの行動を先回りするようになっていった。

少し離れた場所に三脚を置き、次に取りに行こうとしたとき、その器具の前に黒い影が立っているのがはっきり見えたのだ。

背筋が凍りつく。

Yさんは道具を取り戻す気には到底なれず、荷物の一部を置き去りにしたまま必死に駆け下りたという。

当然上司に「何を考えているんだ」ときつく叱られた。

 

翌日、同僚と一緒に同じ場所へ戻ったが、その影は現れなかった。

しかしYさんはどこか残念そうに「やっぱり一人じゃないと出ないんだな」と言った。