
この話は、Fさんが古民家を購入したときに体験した話。
Fさんは田舎に一軒家を買い、休日を使って改装を進めていた。
築年数は古く、あちこち傷んでいたが、それでも「自分の手で直して住む」という喜びがあった。
ある日、押入れを片付けていると、奥に赤い手袋がいくつも置かれているのを見つけた。
古びてはいたが、布ではなくゴムのような質感。
奇妙なのはどれも右手用ばかりだった。
気味が悪いと思いつつもその日は作業を終えた。
夜、寝る前にふと気になり押入れを覗くと、昼間に揃えて置いたはずの手袋の位置が微妙に変わっていた。
ぞっとして押入れを閉め、そのまま布団に潜り込んだ。
数日後、押入れを開けてみると壁に穴が開いているのを見つけた。
何だこの穴は!?と驚いて近づき、懐中電灯を照らしてみると、向こう側で赤い手袋をはめた何かがじっとこちらを見ていた。
次の瞬間、その手袋がにゅっと伸びてきてFさんの手を掴んだ。
冷たく湿った感触に心臓が跳ね上がり、必死に手を振りほどく。
押入れの襖を乱暴に閉め、しばらく動けなかった。
翌朝、恐る恐る押入れを開けると、穴は跡形もなく消えていた。
気のせいだったのかと自分を疑いながらも、念のためその穴があった場所に板を補強し、鉄板を打ち付けて塞いだ。
だがそれ以来、夜中になると押入れの中から「ゴン、ゴン」と鉄を叩くような音が響くことがあるという。