
Tさんが友人のKさんと、紅葉を見に行った時の出来事。
秋の午後、二人は山道を歩いていた。
あたりは紅葉で鮮やかに染まり、風が吹くたびに落ち葉がひらひらと舞い落ちる。
観光客も少なく、静かで心地よい雰囲気の中を進んでいた。
ところが、Tさんが落ち葉が積もった場所を踏んだとき、足を取られて転んでしまった。
手をついた地面の下から、ふいに白いものが覗いた。
最初は石かと思ったが、それは顔だった。
ただし、人間のものではない。
目が三つ、額から並ぶように配置されており、口は存在しない。
肌は異様に白く、落ち葉の隙間からじっとこちらを見ているように思えた。
Tさんが凍りついたように動けずにいると、後ろからKさんが慌てた声で叫んだ。
「…それ、動いてる!」
確かに顔はわずかに揺れ、落ち葉を押しのけるように蠢いていた。
次の瞬間、風が強く吹き抜け、積もった落ち葉がざわざわと舞い散った。
視界を遮るほど葉が舞い上がり、気づけばその顔は形を失い、どこかへ飛び去ってしまった。
残されたのは、散らばった落ち葉とむき出しの地面だけ。
先ほどまでそこに何かが埋まっていた痕跡は一切なかった。
二人はしばらく無言になっていたが、急いで山を下りた。
山風に舞う落ち葉の音が、いつまでも背後から追いかけてくるように思えたという。