
大学生のTさんがサークル仲間と体験した出来事。
数人で登山に出かけたTさんたちは、山中にある古びた山小屋で一泊することになった。
小屋は木造で、壁には古い覗き窓が残されており、外を確認するためのものらしかった。
夜になり、仲間たちは疲れ果てて眠りについた。
真夜中、Tさんはふと目を覚ました。
すると壁の覗き窓が気になった。
寝返りを打つようにして目を向けると、その窓の向こうに白いものがぼんやりと立っているのが見える。
輪郭は曖昧で、着物のような布が揺れているように見えた。
Tさんは慌てて隣で眠っていたMさんを小声で呼び起こした。
最初は寝ぼけていたMさんも、覗き窓を見て一瞬で目を覚ました。
そこには確かに白い人型のようなものが立っている。
Mさんは好奇心に駆られ、そっと音を立てないようにして小屋の入口へと向かった。
そして扉を開け、外から覗き窓を確認する。
だが…そこには何もいなかった。
「…いないぞ」Mさんが小声で告げる。
しかしTさんが覗き窓を見つめ続けると、まだそこにいるという。
外にはいないのに、窓の向こうには存在するという矛盾。
Tさんは堪えきれずに外に出て、Mさんと並んで窓の方を見た。
不思議な事に窓の外には何も立っていなかった。
二人で訝しみながら小屋に戻ると、覗き窓の向こうの白い影はいつの間にか消えていたという。