
Sさんが山奥をドライブしていた時の話。
Sさんは趣味で林道を走るのが好きだった。
舗装もされていないような細い道を、車でゆっくりと進み、地図にも載っていない道を探すのが楽しみだった。
ある日の夕方近く、雨が降りそうなどんよりとした曇り空の下、人気のない山道に入り込んだ。
周囲は薄暗く、木々の間から時折冷たい風が抜けていく。
その時だった。
道の脇に大きな石が座っているかのように見えた。
いや、正確には人の形をした石だった。
背を丸めて腰を下ろしたような姿勢で、頭の形や肩の曲線まで妙にリアルに見える。
Sさんは車を止め、興味本位で写真を撮ろうとした。
スマホのカメラを構え、画面越しに見た瞬間…石がほんのわずかに姿勢を変えたように見えたのだ。
肩がずれたようにも、頭が傾いたようにも思えた。
気のせいかと自分に言い聞かせながらも、全身に冷たい汗がにじんだ。
恐怖に駆られたSさんは、写真を撮るのを諦めてすぐに車へと戻った。
エンジンをかけ、来た道を引き返すようにして山を降りていった。
後日、あの不思議な石をもう一度見ようとその林道を探しに行ったのだが、どうしても同じ場所に辿り着けなかった。
地図を見てもそれらしい道はどこにも載っていない。
Sさんは今でも、あの人の形をした石が現実にあったものなのか、それとも山に潜む何かだったのか、わからないままだという。