怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

尾根の向こうの境界線

これは大学生のMさんと、その友人たちが夏休みに体験した話である。

 

三人は登山サークルに所属しており、比較的マイナーな山域を縦走する計画を立てていた。

二日目、予定していたルートを進むうちに、ふと地図には載っていない古道を見つける。

そこからなら尾根をショートカットできるかもしれないと考え、迷いながらも進むことにした。

 

やがて道は急に開け、目の前に小さな社が現れる。

苔むした石段と古びた鳥居が、その場だけ時間を止めたかのように佇んでいた。

三人は軽い気持ちで鳥居をくぐり、そのまま奥へと進んだ。

 

だが、一歩踏み入れた瞬間から空気が変わった。

周囲の木々はどれも不自然に白く、幹は細い。

それらの枝は、風もないのにかすかに揺れている。

耳を澄ませても鳥の声ひとつ聞こえない。

見上げた尾根の稜線は、まるで油絵の具を塗りたくったように歪んで、揺らめいていた。

Mさんは背筋に冷たいものを感じ、ここは自分たちの知る山ではないと直感する。

するとKさんが、木々の間に何かが立っているのを見つけてしまった。

 

それは白い塊のようで、人間の形をしているようにも見える。

しかし、腕や足、顔といった輪郭はどこか曖昧で、まるで光そのものが人型を成しているかのようだった。

Mさんが思わず瞬きをした瞬間、その塊はありえない速度で滑るようにこちらへ近づき始めた。

地面を踏むでもなく、空気を切る音もなく、ただ無音のまま異様な速さで迫ってくる。

 

三人は我に返り、一目散に引き返した。

鳥居を抜けて元の踏み跡に飛び出した瞬間、背後の空気がふっと軽くなる。

振り返ると先ほどの社と鳥居、そして白い木々が跡形もなく消えていた。

 

息を切らしながら尾根に戻った三人は、誰も口を開けなかった。

ただ共通していたのは、「あのまま立ち尽くしていたら戻れなかった」という、確信にも似た恐怖だった。