
Sさんが大学生だった頃の話。
Sさんは英文学を専攻していて、実家を離れて一人暮らしをしていた。
住んでたのは古いアパートで、部屋は二階の角部屋。
窓から見えるのは隣の家の生垣くらいで、周りは静かな場所だった。
夜型の生活で、課題や本を読んでると気づけばいつも夜中の二時や三時になっていた。
その日もレポートの最終チェックをしており、部屋の蛍光灯だけが白々と光っている。
ようやく作業が終わってホッとしたその時。
ガリ。
木を爪でひっかいたような小さな音がした。
窓のすぐ外から聞こえてきた気がする。
不思議に思ったのだが、気のせいだろうと気にしない事にした。
しかし数分後。
カリ、カリカリ…。
今度はさっきよりはっきり、まるで窓枠を指で探るみたいに動いている音がする。
二階の窓の外に何がいるというのだろうか。
Sさんはゆっくりと立ち上がり、音のする窓へと向かう。
カーテンは閉まっている。
閉め切られた布の向こうから、音がピタリと止んだ。
Sさんがカーテンを少しだけ開けようとしたその時…
ガラッ!
突然、窓の下から強烈な衝撃と共に、何かが滑り落ちるような重い音がした。
体が硬直して動けない。
数秒が過ぎても何の音も聞こず、Sさんは意を決してカーテンを開けてみた。
何もいない。
今度はより窓に近づき、周りに何もいない事を確認したあと、窓を開けて下を覗き込んでみた。
だが窓の下には何もおらず、落ちたようなもの等無かった。
しかしSさんは一睡もできなかった。
次の日の昼、外に出て確認してみると、二階の外壁や生垣の上あたりに、泥で汚れた五本の指の跡がくっきり残っていた。
ぞっとした。
それからはそういう事が無くなったそうだが、一体窓の外に何がいたのだろうか。