怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

間取り図にない地下の部屋

ネットで知り合ったSさんから聞いた話。

 

彼は数年前、地方で中古の一軒家を購入したことがあるという。

築年数は古いが柱や床はしっかりしていて、価格も手頃だった。

内見のときも特に気になる点はなく、すぐに契約を決めたそうだ。

 

しかし引っ越し後、奇妙なことに気づいた。

押し入れの下段の板が、外れるようになっていたのだ。

最初は「ただの収納の工夫だろう」と思ったが、板を持ち上げてみると暗い穴が口を開けていた。

その奥には地下へと続く木の階段が伸びていた。

当然間取り図にはそんなものは載っていない。

「え、なんだこれ?」興味を抑えきれず、懐中電灯を片手に階段を降りていった。

 

階段を降り切ったところに、一枚の古い木のドアがあった。

表面には色褪せた御札のような紙が何枚も貼られている。

掠れた文字は読めなかったが、長い年月を経ても剥がれずに残っていた。

ためらいながらも一枚を指で触れた瞬間、紙は乾いた音を立てて崩れ落ちた。

思わず身を引いたが、残りの札も自然と剥がれ床に散っていった。

仕方なくドアを押すと、ギィーという軋んだ音を響かせながら開いた。

 

そこには四畳ほどの小さな部屋があった。

壁は土のようなものでできており、黒ずんで湿っている。

天井は低く、空気はひんやりしていた。

部屋の中央には古びたちゃぶ台が置かれているだけで、他には何もない。

窓もなく外界と繋がっている気配がなかった。

夏だというのに部屋の中は異様に寒い。

地下だから冷えるのだろうと自分に言い聞かせ、すぐに階段を引き返した。

 

それからというもの、Sさんは奇妙な夢を見るようになった。

夢の中で自分はあの部屋に座っている。

ちゃぶ台の向かいには、髪の長い女性が黙って座っている。

顔は影になって見えない。

彼女は一言も発さず、ただじっとこちらを見ているようだ。

 

さらに現実でも夜中にふと目を覚ますと、床下からギィ、ギィ、と足音が聞こえることがあった。

まるで階段を一段ずつ上がってくるような音。

しかし押し入れを確認しても階段の板は閉じられたまま、何の異常もなかったそうだ。

 

「怖くなかったんですか?」

と私が聞いてみると、Sさんは笑って首を振った。

「夢の中の話だから。それに足音も家鳴りみたいなものでしょう」

と言った。

今その部屋はどうなってるのか聞いてみたところ、もうそこには住んでないとの事だった。

理由は、湿気の関係か分からないが、日を追う事に黒いカビのようなものが、地下へと続く階段の壁に現れた。

数日後には、押入れの中までそのカビが出てきてしまったという。

その事を不動産屋に言ったところ、一悶着あったらしいが、結局は不動産屋のミスという事で収まったとの事だった。