
お盆の時期、Rさんは気まぐれに一人で山奥にキャンプに出かけた。
都会の喧騒から離れ、二泊三日を自然の中で過ごす計画だった。
近くには澄んだ川が流れ、川面を渡る涼しい風が心地よい。
初日の夕方、焚き火の準備をするために周囲を歩き回って枯れ枝を拾っていると、不自然に切り揃えられたような朽ちかけた木材が落ちていた。
表面は苔むしているのに手に持つと妙に軽く、雨続きのはずなのに湿り気もない。
不思議に思いつつも「ちょうどいい」と思い、テントの場所へ持ち帰った。
ノコギリで焚き火にちょうどいい長さに切ると、木の断面は真新しいように乾いており、まるで最近伐られたかのように瑞々しい色をしていた。
首をかしげながらも、その夜は予定通りに火を起こした。
焚き火はよく燃えた。
薪が乾いているせいか炎は勢いよく上がり、パチパチと音を立てては火の粉が舞った。
だがしばらくして、ふと違和感を覚える。
火の中から、かすかな声のようなものが混じって聞こえてくるのだ。
「…あつい…あつい…」
耳を疑い火に近づくと、確かに誰かが呻くような声が炎のはぜる音に紛れていた。
背筋が冷え、慌てて水をかけて火を消そうとしたが、薪は簡単には鎮火しなかった。
赤黒く焦げる木片からはなおも声が漏れているようで、Rさんは恐怖に駆られ、残りの薪をすべて川へ放り投げてしまった。
二泊三日の予定を切り上げ、翌朝には山を降りた。
だが帰宅後も気味の悪さが消えず、なんとなくその場所について調べてみると、数年前にちょうどその付近で一人の男性が行方不明になっていたという記事を見つけた。
山菜採りに入ったきり戻らず、遺体も痕跡も見つからなかったらしい。
記事を読み返しながら、Rさんの頭にあの「薪」がよみがえった。
どう見ても長い間放置された木材のはずなのに、あの不自然な乾き方、そして炎の中で聞こえた声━━。
川に投げ込んだ薪は、あの後どうなったのだろう。
そして、あの声は一体誰のものだったのか。