
学生だった頃のKさんから聞いた話。
Kさんは大学生で、アパートの二階の角部屋に住んでいた。
大学からは少し離れていたが家賃は安く、間取りも気に入っていた。
ある日、授業が午前中で終わり、昼過ぎにアパートに帰った。
普段なら誰もいない静かな時間。
部屋に入り教科書をバッグから出そうとしたその時だった。
下の階から何かを叩くような音が聞こえてきた。
ドンッ、ドン、ドンッ。
規則的ではなく少し間延びしたリズム。
重い何かの塊か、土の詰まった袋を床に落としたような、鈍い音だった。
Kさんは引っ越してきた時、先に住んでいた友人から聞いた言葉を思い出した。
「下の部屋は、静かなおじいさんが住んでるから大丈夫だよ。
夜も静かだし安心だ」
だから最初は、その人が何か作業でもしているのだろうと思った。
だが一時間経っても音は止まらなかった。
ド、ドンッ、ドン。
ドンッ、ド、ドン。
さすがに気になり、下の階へ様子を見に行くことにした。
階段を降りドアの前に立つと、音は内側からはっきり聞こえていた。
ドンッ。
ドンッ。
Kさんは軽くノックした。
コンコン。
すると音はピタリと止まり、しばらく沈黙が続いた。
「あの、すみません…」
声をかけても反応はない。もう一度ノックしようとしたその時。
ドンッ。
ドアのすぐ向こうから一度だけ音が響いた。
これまでよりも明らかに近く、まるで返事をするかのように。
Kさんは全身が冷え、反射的に駆け上がって自分の部屋に逃げ込んだ。
ドアに鍵をかけ、壁に背をつけて息を潜めた。
しばらくすると再び下から音が続いた。
ド、ドンッ。ド、ドン…。
数日後、大家さんに会ったKさんは思い切って尋ねた。
「下の部屋の方、いつも何かを叩くような音がしているんですが…」
大家さんは、しばらく黙り込んだ後で言った。
「音?…あそこは空き部屋ですよ。もう何年も、誰も入ってませんから」
友人は「静かなおじいさんが住んでる」と言っていた。
大家さんに続けてその事を聞いてみると
「静かなお年寄りですか?…私が管理する前はそういう人も住んでいたようですが…もう何年も前の話なのでちょっと分からないですね」
Kさんはその場で言葉を失った。
では友人が見ていたのは…。