
Kさんが高校生の頃、友人たちと夜中に肝試しをした時の話。
Kさんの住んでいる地域から、自転車で二十分ほど走った林の奥に廃寺があるという噂があった。
そこには鐘楼が残されており、夜になると鐘の音が響くと囁かれていた。
だが、廃寺は長い間使われておらず、住職もいない。
鐘を突けるはずがないのに音が鳴る──その話が、学校で怪談めいて語られていた。
夏休みのある夜、Kさんと友人三人はその噂を確かめようと、自転車を走らせた。
時刻は午前一時。
街灯もない林道を抜けると、ひっそりとした境内に辿り着いた。
近くに民家はなく、周囲は闇に沈んでいる。
月明かりに照らされた廃寺は、崩れかけた本堂と鐘楼だけが残り、周囲には雑草が生い茂っていた。
空気は湿って重く、足を踏み入れた瞬間から背筋に冷たいものが走った。
「よし、誰が鳴らす?」友人が言い、Kさんが勇気を振り絞って鐘楼に向かった。
鐘は苔むしていたが、まだ突くことはできた。
両手で撞木を持ち、思い切って振るう。
━━ゴォォン…。
低い音が林に溶け込み夜気が揺れる。
鳥肌が立ち、心臓が跳ねる。
その直後だった。
「…いたずらするな」
はっきりとした声が、本堂の方から響いた。
全員が凍りついた。そこには誰もいないはず。
懐中電灯を向けても人影はない。
ただ風に揺れる木々がざわめくだけ。
「ご、ごめんなさいっ!」誰かが叫び、その声に引きずられるように全員が境内を飛び出した。
自転車に飛び乗り、必死にペダルを漕ぐ。
後ろを振り返る勇気は誰にもなかった。
家に戻った頃には全員が汗だくで、声も出せなかったという。
鐘の音を鳴らした後に聞こえたあの声、あれは一体誰のものだったのだろうか。
誰かのいたずらなのか、それとも…。