
Sさんが地元の神社で手伝いをしていたのは、夏の終わりのことだった。
そこは古びて参拝客も少なく、今は地元の人が交代で境内を管理している。
その日、Sさんは神主に頼まれて、境内の外れにある倉庫の整理を任された。
埃をかぶった木箱や、いつのものかわからない古道具を片づけていくと、奥の棚に束ねられた御札が目にとまった。
黄ばんだ紙は年月を経て風化し、墨は薄れていたが、裏にははっきりと人名と日付が記されている。
そしてその横に「済」という文字。
すべての御札に同じような書き方がされていた。
不思議に思ったSさんは、ふざけ半分でそのうちの一枚を剥がし、ポケットに入れて持ち帰ってしまった。
その夜。
寝る前に玄関のチャイムが鳴った。
時計は深夜零時を過ぎていた。
慌ててモニターを確認すると、防犯カメラに映っていたのは見知らぬ中年の男性だった。
だが、御札に記されていた名前を思い出した瞬間、血の気が引いた。
それは十年前に亡くなったはずの人物の名だったのだ。
恐怖でドアを開けることもできず、ただ震えながら朝を待った。
そして翌朝。
リビングの机の上に、昨日持ち帰った御札が置かれていた。
しかし文字は変わっていた。
裏にはSさんの名前と、「済」の代わりに真っ赤な墨で「未」と記されていたのだ。
誰が書き換えたのかは分からない。
ただ一つ、Sさんは悟った。
あの束に並んでいた人名は、既に済となった者たちの名であり、自分が引き抜いたことで、新たに自分の名前が加わったのではないかと。
以来、Sさんは夜になると玄関に立つ気配を感じる。
その正体を確かめる勇気は無く、御札は神主さんに理由を話て預けてきたそうだ。
もちろん説教をくらったのはいうまでもない。