怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

社務所の引き出しにある小さな木箱

地元の古い神社で、長く務めていた元禰宜さんから聞いた話。

 

社務所には年代物の木机があり、その引き出しの奥には小さな木箱が収められている。

パッチン錠が付けられているのだが、神社の一部の人しか中を見たことがない。

引き出しの鍵は代々神主に引き継がれているらしいが、箱を開けることは決してないという。

ところが不思議なことに、年に一度、その箱が勝手に開いていることがあるのだ。

 

ある年の夏の夜、禰宜だったRさんは社務所に泊まり込んでいた。

午前二時頃、境内の方から「じゃり、じゃり…」と砂利を踏む音がした。

こんな時間に参拝者などいるはずもない。

驚いて戸口から覗くと、人影はどこにも見えなかった。

翌朝境内を見回ると、本殿へと続く砂利道に人の足跡が一対だけ残っていた。

鳥居の前でぴたりと途切れ、その先には続いていない。

嫌な予感がして社務所へ戻り、引き出しを開けると木箱の錠が外れていた。

蓋は簡単に持ち上げる事が出来るが、どうしても手を伸ばす気にはならなかったという。

 

不思議なことに、その箱は翌日になると必ず元通り閉まっている。

錠もきちんとかけられた状態に戻るのだ。

 

「何が入っているのか、私も知らんのですよ」

そう語ったRさんの顔は冗談めかして笑ってはいたが、どこか本気で恐れているようでもあった。

今でもその神社では、箱に触れる者は誰もいない。

ただ年に一度、砂利を踏む足音が聞こえるたびに、人知れず「今年も来たか」と息を呑むのだという。