怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

別荘の窓から覗き込む影

大学生のTさんから聞いた話。

 

Tさんは人の住んでいない山奥の別荘で、短期の住み込み管理人をしていた。

仕事は主に、荒れた庭の手入れと別荘の清掃。

周りには何もないため、夜は真っ暗で、音がするとしたら野鳥の鳴き声か、どこかで動く動物の気配くらいだった。

別荘は二階建てで、Tさんは一階の物置を改築した部屋で寝起きしていた。

その部屋には窓が一つあり、防犯のためいつも厚いカーテンを閉めていた。

 

ある夜のこと。

Tさんは疲れて眠っていたが、ふと部屋の隅に置いた目覚まし時計の音で目を覚ました。

朝かと思って時刻を見ると、まだ午前三時を少し過ぎた頃。

なぜ目覚ましが鳴ったのかは分からなかった。

Tさんは枕元の電気をつけず、ぼんやりと天井を見つめていた。

その時、部屋の空気が急に重くなったのを感じた。

視線は自然と、窓にかけられた分厚いカーテンへと引き寄せられていった。

繊維の隙間から微かな光が漏れている。

その光が規則正しく、ゆっくりと遮られてはまた現れる。

 

まるで、誰かが窓の外を行ったり来たりしているような動きだった。

別荘の周囲には柵があり、夜に人が入ってくることはあり得ない。

動物にしては、あまりにもゆっくりすぎた。

Tさんは心臓の鼓動を抑えながら、静かに布団を被った。

 

だがその直後、窓の外の動きがぴたりと止まった。

音も気配も途絶えた。

恐る恐る布団の隙間から顔を出すと、カーテンのちょうど自分の顔の高さあたりで、生地が外側から押されているのが見えた。

その押しつけられた形は、明確に丸い顔の輪郭を描いていた。

顔は微動だにせず、ただそこに張りついたまま数分が過ぎた。

Tさんは息を殺し、ひたすらその場に身を縮めていた。

 

やがて、押しつけられていた顔がゆっくりと離れた。

Tさんは安堵の息をつきかけたその瞬間だった。

カーテンの真ん中。

きっちり閉めていたはずの布と布の間に、わずかな縦の線が開いた。

その向こうがぼんやりと白く光っている。

白い光の線は音もなく、じりじりと、ほんの数ミリだけ横に広がった。

広がった隙間の向こうに、Tさんの目線と同じ高さから、何かが覗き込んでいるのが見えた。

それは人ではなかった。

暗闇の中で輪郭は分からなかったが、白く無機質な目がじっとこちらを見つめていた。

その視線の圧にTさんは動くこともできず、ただ朝が来るのを祈るしかなかった。

 

━━朝になって、Tさんはすぐに別荘を飛び出した。

そのまま契約を破棄し、逃げ帰ったという。