
地方の小さな神社で、神主をしているFさんから聞いた話。
年の瀬も近い、冷たい風が境内の木々を鳴らす頃。
その日、社務所を閉めようとしていたFさんは、社務所の前に置かれた一つの紙袋に気づいた。
茶色のどこにでもあるような紙袋。
だが、どこにも名前がなく、メモひとつ添えられていなかった。
中を確認すると古びた日本人形がひとつと、黒ずんで歪んだ小さな鏡が入っていた。
人形の顔は塗装が剥がれ、目の黒が薄くなっている。
鏡の裏には、誰かの手で刻まれたような細い傷が何本も走っていた。
Fさんは、誰かが「お祓い」を頼もうとして置いていったのだろうと思い、とりあえず社務所の隅に紙袋を置いておいた。
ところが、その夜から妙な夢を見るようになった。
夢の中にあの紙袋がぽつんと現れるのだ。
中を覗くと、初めは昼間見た通りの人形と鏡が入っていた。
しかし、翌晩になると中身が変わっていた。
今度は干からびた花束と、真っ黒な羽根が数本。
三日目の夜、Fさんは夢の中でまた紙袋を見つけた。
恐る恐る中を覗くと、そこには━━自分の顔が入っていた。
まるで鏡で映したかのように生々しく、目だけがじっとこちらを見上げている。
Fさんは叫び声を上げて目を覚ました。
息が荒く、額には冷たい汗がにじんでいた。
夜明けと同時に社務所へ行くと、あの紙袋が消えていた。
境内のどこを探しても見つからない。
しかし、一つだけ異変があった。
社務所の壁に掛けてあった鏡━━いつもお祓いの前に姿を整えるための鏡が、ひび割れ床に落ちていた。
鏡面には、ひときわ深いひびが一本、ちょうど顔の中央を縦に走っていた。
「年の暮れは、いろんなものが帰ってくる時期なんですよ」
そう言ってFさんは、どこか遠くを見るような目をしていた。