
大学生のSさんたち四人が、夏のある夕方に体験した出来事。
その日、彼らは肝試しをしようと、地元で「誰も近寄らない」と噂されている山中の廃墟を目指した。
そこは昔、別荘として建てられた木造のログハウスで、十年以上前から放置され、今では木や草に呑み込まれるように建っているという。
夕方の五時を過ぎ、曇り空のせいで山の影が濃く、辺りはすでに薄暗かった。
舗装の途切れた細い山道を進むと、木の間に黒ずんだ屋根が見えた。
湿った風が頬を撫で、蝉の声が遠ざかっていく。
ようやく開けた場所に出ると、そこに古びたログハウスが建っていた。
窓はガラスが無い場所もあり、ドアは外れている。
Sさんたちは懐中電灯を手に、少し離れた場所から建物を見上げた。
「本当に入る?」と友人の誰かが呟いたその時だった。
二階の窓に一瞬、人の顔のようなものが映った。
白っぽく、輪郭だけがぼんやりと浮かび、目がこちらを見ているように見えた。
「今の、見たか?」Sさんが声を上げると、全員が黙ったまま頷いた。
確かに何かがいた。
でも次の瞬間にはもう消えている。
風のせいだ、光の加減だ━━そう思おうとしても、誰も口に出せなかった。
静まり返った山の中で、木々のざわめきだけが耳に残る。
すると突然、ログハウスの入口あたりに白い靄のようなものが現れた。
人の形をしているようにも見えたが、はっきりとは分からない。
それはゆらゆらと揺れ、地面から浮かぶようにして消えていった。
誰かが息を呑む音が聞こえた。
そして誰も何も言わないまま、全員が一斉にその場を離れた。
足音を立てることすら恐ろしく、ただ無我夢中で山道を駆け下りた。
下山して車に戻った時には、全員が汗だくになっていた。
辺りはもう薄闇に包まれ、木々の間から吹く風が冷たく感じられたという。
その夜、Sさんはスマートフォンに保存していた写真を確認した。
ログハウスを遠くから撮った一枚━━窓のあたりに、薄く白い影が写っていた。
人のような、煙のような掴みどころのないものが。
それを見た瞬間、Sさんはそっとスマホを伏せた。
あの廃墟には、もう二度と行くまいと思った。
あのとき見た白い靄が、今もあの家の中で誰かを待っているような気がしてならなかったからだ。