古民家を改装して暮らそうとしていた、Rさんが体験した話。
Rさんが購入したのは、築百年を超える木造の家。
かつて庄屋だったというその家は、外観こそ立派だが中は傷みが激しく、柱の色も煤けて黒ずんでいた。
改装工事を自ら手伝いながら進めていたある日、Rさんは座敷の畳を剥がしていた。
畳の下の床板が一部、不自然に浮いている。
釘を外して開けてみると、床下に何か四角い木箱のようなものが埋め込まれていた。
なんだろうとよく見てみると、それは古びた木製の引き出しだった。
取っ手は錆び、木の表面には長い年月の跡が刻まれている。
慎重に引き出すと、内部からかすかな埃の匂いが立ち上った。
中には、束ねられた黒髪がひと房━━まるで切り取られたばかりのように艶が残っていた。
その下には破れかけた紙切れが一枚。
古い筆跡で何かが書かれていたが、墨が滲み判読できない。
Rさんは胸の奥がざわついた。
見なければよかった━━そんな後悔がすぐに浮かんだ。
だが、せっかく見つけたものをそのままにしておくのも気味が悪い。
とりあえず紙切れと髪を袋に入れ、押し入れの奥に置いた。
その夜だった。
静まり返った座敷の天井から、「みし…みし…」と木が軋むような音がした。
古い家だからだろう━━そう思おうとした。
だが、音は一定の間隔で繰り返され、やがて天井をゆっくりと移動するように響き始めた。
まるで誰かが上を這っているように。
Rさんは明かりを点け、息を潜めて耳を澄ませた。
すると「ぴたり」と音が止んだのだが、今度は天井の真上で「ぎっ」と強く鳴った。
その一音が、まるで「見ている」と告げているように感じられた。
翌朝、Rさんは恐怖のあまりネットで神社を調べ、すぐに近くの神社を訪ねた。
事情を話すと神主は静かにうなずき「そのままにしてはいけません」と言った。
引き出しごと家にあったものをすべて持参し、神社で預かってもらうことになった。
それからというもの、家の天井が鳴ることはなくなった。
けれど夜になると座敷の空気がどこか湿り、かすかにカビ臭い匂いがするのだという。