怖い話と怪談の処

あなたが今読んだその話、本当に「作り話」だと言い切れますか?

配管の中から覗くもの

Nさんが新居として借りた、古い団地で体験した出来事。

 

築五〇年を超えるその団地は、外壁がところどころ剥がれている。

入居当初こそ多少の古さに目をつぶっていたが、住み慣れてくるにつれて、夜の静けさがやけに気になるようになった。

特に気味が悪かったのは風呂場だった。

排水口の金属蓋の下から、いつも湿った匂いが上がってくる。

そして夜になると、そこから何かに見られているような気配を感じるのだ。

 

ある晩、シャワーを終えて髪を拭いていたときのこと。

何気なく視線を落とすと、排水口の奥で何かがきらりと光った。

反射かと思ったのだが、見る角度を変えても光は消えない。

まるで光る何かが、こちらをじっと見上げているように見えた。

Nさんは声も出せず、そのまま風呂場を出た。

恐怖よりも、理解できない現実への混乱が勝っていたという。

 

翌朝、すぐに管理会社へ連絡し、配管清掃の業者を呼んでもらった。

業者の男性は慣れた手つきで工具を取り出し、排水トラップを外し、内視鏡カメラを挿入した。

モニターには錆びついた管の内側が映し出された。

しかしその映像を見た瞬間、業者が驚いた。

配管の内側には、びっしりと何かが貼りついていた。

細かい鱗のような、銀色に光るもの。

まるで蛇の皮が管の内側を覆っているようだった。

だが、一枚だけ異様に大きなものがあった。

他の数倍の大きさで、まるで瞼のような形をしている。

「こんなもん、どうやって入ったんですかね…」業者は苦笑いを浮かべつつも、顔は青ざめていた。

管の直径は数センチしかない。

人の手どころか、小動物すら入り込めない細さだ。

 

清掃ののち、鱗のようなものはすべて剥がされ処分された。

だが、その日の夜、Nさんは再び風呂場で妙な感覚を覚えた。

水を流すたび、排水口の奥から湿った音が聞こえる。

まるで何かがゆっくりと蠢いているような音。

恐ろしくなって水を止めると音も止まった。

しんとした浴室の中で、Nさんは目を凝らした。

薄暗い排水口の奥━━何かがゆっくりと閉じるように見えたという。

 

翌朝もう一度確かめようとしたが、その配管には何の異常もなかった。

ただ、業者が残していった報告書の最後に、こう書かれていた。

「管内に見られた鱗状の物質は、すべて除去済。

ただし、一部の範囲に再付着の可能性あり。」

Nさんは今もその団地に住んでいるのだが、夜に風呂場を使うことはなくなったという。