Hさんがその神社跡を見つけたのは、紅葉が始まる少し前の秋だった。
地元の山をひとりで登っている途中、地図にも載っていない細い道を見つけ、興味本位で入っていったのだという。
やがて木々の隙間から、崩れかけた鳥居が見えた。
近づくと苔むした石段の先に小さな社のような建物があり、屋根は落ち、祠の内部も空っぽ。
誰も来ないまま何十年も放置されているようだった。
Hさんはその荒れ果てた静けさに、どこか惹かれるものを感じたらしい。
ふと裏手へ回ると、地面の斜面に黒い穴が開いていた。
人ひとりがかがめば入れるくらいの大きさで、周囲の土は不自然に新しく、掘り返されたように見えた。
気味は悪かったが、Hさんは懐中電灯を取り出し中を照らした。
湿った土の壁が続いており奥は見えない。
しかし、光の端に何かがかすかに反射した。
なんだろう?とライトを向ける角度を変えた瞬間。
その反射したものがゆっくりと閉じた。
まるで瞼を閉じるように。
Hさんは凍りついた。
息を呑んでライトを動かすと、再びそれは開いた。
光を受けて、確かに目の形をしていた。
土の中に埋まっているのは石ではなく、誰かの顔のように見えた。
恐怖で足がすくみ、思わず後ずさる。
だがその瞬間、穴の奥で何かがずるりと動く音がした。
土が落ち、暗闇の奥か、別の光るものが現れた。
またひとつ、そしてもうひとつ。
目がいくつも。
それらが同時にHさんの方をじっと見ている。
ただの錯覚かもしれない。
でも、そのまなざしには怒りのようなものがあった。
Hさんはライトを放り投げるようにして逃げ出した。
鳥居の前を転びながら走り抜け、ようやく元の登山道に戻ったとき、背後の林から風が吹いた。
その風の中に、かすかに「しゃら…しゃら…」と、土が崩れるような音が混じっていたという。