Oさんが友人二人と夜景を見に行ったときの事。
季節は秋の終わり。
空気が澄んで星がよく見える夜だった。
三人は、街から少し離れた山の上の展望台に車で向かった。
展望台の駐車場には彼女らの車しかない。
他に人影もなく、周囲は街灯の届かない暗闇に包まれていた。
展望デッキに上ると眼下に街の光が広がり、遠くの道路が蛇のように曲がりながら伸びている。
「誰もいない夜の展望台って意外と怖いね」
そんな冗談を言いながら三人は星を指さしたり、夜景をスマホで撮ったりして過ごしていた。
しばらくして、ひとりの友人がふと口を開いた。
「…あの人、いつ来たんだろう?」
Oさんともう一人の友人が振り向くと、デッキの端、欄干のそばに髪の長い女性が立っていた。
暗くて顔はよく見えない。
風に髪が揺れているのが、ぼんやりと分かる程度。
駐車場には自分たちの車しかなかった。
この展望台には最寄りの民家もなく、バスも走っていない。
「たまたま歩いて登ってきたのかも」
と無理やり納得しようとして、三人は気にしないふりをした。
数分後、Oさんはもう一度そちらを見た。
女性はまだ同じ姿勢で、夜景の方を向いたまま動かない。
あまりにも静止していて、まるで人形のようだった。
そのとき、隣の友人が小さく息を呑んだ。
「…あれ?消えた!」
慌てて視線を向ける。
確かに、さっきまで女性が立っていた場所には誰もいない。
周囲に身を隠せるような場所もない。
歩く音や、展望台の階段を降りる音も聞こえなかった。
「…うそでしょ?」
友人は震える声で言った。
どうやら彼女は、気になって時々そちらを見ていたらしい。
そしてほんの一瞬、瞬きをしたその隙に━━ふっと、煙のように消えたのだという。
展望台の木製デッキがきしりと軋む。
その音が、まるで誰かが歩いているように感じられた。
怖くなった三人は駆けるようにして展望台を降り、駐車場へ戻った。
エンジンをかけ、山道を下り、ふもとのファミレスに着いたとき、全員がようやく息を吐いた。
あの展望台の静けさが、まるで別の世界だったかのように感じられたという。