「本当に出るのかよ、幽霊なんて」
Fくんが笑いながら言った。
夕暮れの空が赤から紫に変わる頃、彼と友人のKくん、Mくんの三人は、町外れにある廃校舎の前に立っていた。
この学校は十年以上前に閉鎖され、今では誰も近づかない場所だった。
だが最近、「夜になると廊下に女の幽霊が現れる」という噂が一部で広まり、好奇心旺盛なFくんたちは確かめに来たのだった。
校舎の扉は錆びていたが、鍵はかかっていない。
ギィ…と音を立てて開くと冷たい空気が流れ込んできた。
三人は懐中電灯を手に、ゆっくりと廊下を進んでいく。
「なんか…寒くなってきたな」
Mくんがつぶやく。
確かに外よりもずっと冷たい。
しかも、足元には白い霧のようなものが立ち込め始めていた。
「霧?なんでこんなとこに…」
Kくんが懐中電灯を向けるが、霧は光を吸うようにぼんやり広がっている。
そのときだった。
廊下の奥、教室の前にぽつんと座る人影が見えた。
女のようだった。
長い髪が顔を隠し、白い制服のような服を着ている。
動かずただそこにいる。
「誰だあれ」
Fくんの声が震えた。
三人は立ち止まり息を呑んだ。
女はゆっくりと立ち上がり、こちらを向いた。顔は髪で隠れて見えない。
それでも確かに三人を見ていると分かった。
次の瞬間、女は無言のまま歩き始めた。
足音はなく、霧の中を滑るように近づいてくる。
「逃げよう!」
Kくんが言ったが誰も体を動かせない。
全身が凍りついたようで、その姿から目を離せなかった。
女はFくんの目の前まで来た時、ようやく顔が見えた。
沈んだ黒い目、そして微かに笑っているような口元。
次の瞬間──彼女の姿は霧とともにふっと消えた。
三人はそこで一斉に息を吐き出した。
張り詰めていた緊張が切れ、体が急に動くようになった瞬間Mくんが叫んだ。
「逃げろ!!」
三人は反射的に走り出した。
木の床に足音が鳴り響き、霧をかき分けながら廊下を駆け抜ける。
扉を押し開けると夜の冷たい空気が流れ込み、三人は校舎の外へ飛び出した。
しばらく走り続け、校舎から十分に離れたところでようやく立ち止まる。
肩で息をしながら互いの顔を見ると、誰もが青ざめていた。
「見たよな…あれ、絶対人じゃないよな」
「夢じゃないよな…」
震える声で確認し合うが答えは出ない。
ただ恐怖だけが残った。
その夜、三人は一人で帰るのが怖くなり、Fくんの家に泊まることにした。
部屋の明かりをつけ、ゲーム機を起動し、無理やり明るい雰囲気を作ろうとする。
コントローラーを握りながらも、ふと沈黙が訪れる。
思い出すたび喉の奥が冷たくなる。
結局朝までゲームを続け、誰も眠ることなく夜を越えた。