私たちは今、スマホ一つあれば世界中のどこへでも行けると思っている。
だが、それは大きな間違いだ。
この世界にはまだ「Googleの衛星」ですら捉えきれない、あるいは「意図的に隠されている」場所が存在する。
今回、話を聞かせてくれたのは大学生のMさん(20代・男性)。
彼はその日、愛車のバイクで山道を抜け、隣県へ向かうツーリングを楽しんでいた。
ナビの死
「最初は、ただの電波障害だと思ったんです」
Mさんは、いまだに時折バグを起こすという自分のスマホを見つめながら、ポツリと漏らした。
山道を走行中、ハンドルに固定したスマホのナビが、急に不穏な動きを始めたという。
現在地を示す矢印が道のない場所を指し、画面全体がチカチカと「タイル状のノイズ」に覆われたのだ。
気づけば、舗装されていたはずのアスファルトは消え、周囲は背の低い藁ぶき屋根が並ぶ、昭和初期のような集落に変わっていた。
「おかしいなと思ってバイクを止めたんです。エンジンを切ると鳥の鳴き声すらしない。完全な無音。空気の密度が、そこだけ異常に濃い感じがしました」
QRコードの顔を持つ住人
Mさんは道を尋ねようと、一番近くの民家の前に立っていた老婆に声をかけた。
だが、その老婆は微動だにせず、虚空を見つめている。
不審に思ったMさんが、何気なくスマホのカメラを向けた瞬間、背筋に氷を押し当てられたような衝撃が走った。
「画面越しに見ると、そのお婆さんの顔…目も鼻も口もなくて、真っ黒な『QRコード』みたいなモザイクで塗りつぶされていたんです」
驚いて顔を上げ肉眼で確認すると、そこには確かに老婆の顔がある。
しかし、もう一度カメラを通すと、やはりそこには幾何学的な四角い模様が蠢いているだけ。
慌てて他の住人を探したが、畑仕事をしている男も、軒先で遊ぶ子供も、カメラを通せば全員の顔が「QRコード」だった。
まるでこの場所のデータが、外部のデバイスに対して「読み取り拒否」を起こしているかのように。
崩壊する「現実」のテクスチャ
パニックに陥ったMさんは、必死にスマホの画面をスワイプし、地図を更新しようとした。だが、指を動かすたびに目の前の景色に異変が起きた。
「画面を更新しようと指を滑らせると、現実の景色が…山や家が、デジタルノイズみたいにガタガタと崩れるんです。空の色がピンク色に反転したり、木の葉っぱが四角いポリゴンみたいになったりして…」
スワイプすればするほど、世界のテクスチャが剥がれていく。
Mさんは直感した。
「これ以上更新したら、この世界そのものが消えて自分も消滅する」と。
「更新」から逃げ出した先で
Mさんはスマホの電源を強引に切り、記憶を頼りにバイクを走らせた。
バグの隙間を縫うように、色の消えた道を無我夢中で駆け抜ける。
どれくらい走っただろうか。不意に「ポンッ」という軽い通知音が聞こえ、視界がいつもの緑豊かな山道に戻った。
「スマホの電源を入れたら、バッテリーが100%だったはずなのに、たった数分で『1%』になっていました」
その後、Mさんは二度とその場所を見つけられていない。
ただ、今でも地図アプリをアップデートする時、指が震えるのだという。
もし次に「更新」ボタンを押した時、自分の部屋の景色がノイズに変わってしまったら…。