趣味でソロキャンプ動画を配信している、Kさん(20代男性)から聞いた話。
半年前の深夜、Kさんは自宅の自室で動画の編集作業に追われていた。
数日前に山奥のキャンプ場で撮影してきた映像を一本の動画にまとめ、翌朝には公開する予定だったのだ。
時刻は午前3時を回っていた。
映像の細かな色味を確認するため部屋の明かりを落とし、デュアルモニターの青白い光だけで作業を続けていた。
ヘッドセットからは、自分が焚き火を囲んで肉を焼くパチパチという心地よい音だけが流れていた。
「よし、これで大体つながったな…」
Kさんは一通り繋ぎ終えた、動画のタイムラインを最終確認していた。
しかし、その時だ。
動画の末尾、自分がテントに入って就寝し、画面がフェードアウトして終わるはずの部分に、数秒ほどの見慣れないクリップが紛れ込んでいることに気づいた。
撮影した覚えのないカット。
不審に思い、Kさんはその数秒のクリップにシークバーを合わせた。
プレビュー画面に映し出されたのは、テントの中でシュラフに包まって眠る自分自身の姿だった。
定点カメラで撮影していたはずの映像だが、アングルがおかしい。
三脚の高さではなく、まるで誰かが手持ちでカメラを持ち上げ、上から自分を覗き込んでいるような、不安定な視点だった。
さらに、画面の端に異物が写り込んでいた。
自分の顔のすぐ横に、枯れ木のような細い指が添えられている。
そして、カメラがゆっくりと横にスライドすると、そこには見知らぬ老女がしゃがみ込み、眠っているKさんの顔を至近距離でじっと見つめている姿が映し出された。
老女の肌は土色に濁り、深く刻まれた皺の奥にある瞳は、濁ったガラス玉のように生気がない。
「うわっ…!」
Kさんは椅子を蹴るようにしてのけぞった。
撮影中、テントには鍵をかけていたはずだし、何より周囲には誰もいなかった。
パニックになりながらもKさんはマウスを操作して、その不気味なカットをデリートした。
「消えた…よかった」
しかし、一息ついたのも束の間。
消したはずのタイムラインに、再び同じクリップが増殖するように現れた。
今度は2つ、3つと末尾に向かって並んでいる。
恐る恐る再生ボタンを押すと、映像の中の老女が、先ほどよりも明らかにカメラ━━つまり、撮影している視点に向かって顔を近づけてきた。
彼女の口元がわずかに歪み、何かを囁いているように動いている。
音量を上げても声は聞き取れない。
しかし、Kさんは本能で理解した。
これは録画された過去の映像ではない。
今、このモニターを通じて、何かがこちら側に干渉してきているのだと。
彼は必死に編集ソフトを終了させようとしたが、カーソルは凍りついたように動かない。
プレビュー画面の中の老女は、ついに画面いっぱいに顔を突き出し、モニターのガラス越しにKさんと目を合わせた。
その瞬間、ガリガリッという異音とともに編集ソフトが強制終了し、モニターが真っ暗に暗転した。
静寂が戻った部屋。
電源の落ちたモニターは、鏡のようにKさんの姿を映し出している。
画面の中に映る青ざめた自分の顔。
そして…その椅子の背もたれのすぐ後ろ。
暗転したモニターの反射の中に、先ほどの老女が、映像の中と同じ姿勢でKさんの肩越しに顔を出し、にやりと笑っているのが見えた。
「…みつけた」
耳元で掠れた声が響いた。
Kさんは絶叫し部屋を飛び出した。
そのまま実家へ逃げ帰り、二度とあのマンションへは戻らなかった。
後日、友人に頼んで一緒にパソコンを回収したが、ハードディスクの中には、あのソロキャンプの動画データだけが、影も形もなく消え去っていたという。
あなたが深夜に動画を編集しているとき、タイムラインの端に覚えのない数秒が紛れ込んでいたら。
どうか、それを再生しないでほしい。
それはあなたのすぐ後ろにいる誰かが、自分に気づいてほしくて残したサインなのかもしれないのだから。