ネットオークションやフリマアプリの普及により、私たちは見知らぬ誰かと簡単に物を売り買いできるようになった。
だが、その安さの裏側にどんな意図が隠されているかは、届いてみるまで分からない。
関東近郊に住む会社員のAさん(30代)は、先日、フリマアプリで憧れのブランドのスニーカーを見つけた。
「定価の半額以下だったんです。
説明欄には『サイズが合わなかったための未使用品』とあって。
出品者の評価も悪くなかったので、即決しました」
数日後、届いた箱を開けると、そこには期待通りの真っ白なスニーカーが収まっていた。
汚れ一つない、正真正銘の新品に見えた。
Aさんは喜び勇んで、さっそく試し履きをしようとした。
右足を通し、左足を手に取った瞬間。
「…え?」
靴底が黒い。汚れではない。
ソール一面に油性マジックのような細かな文字が、隙間なくびっしりと書き込まれていたのだ。
Aさんはその文字を凝視して、血の気が引くのを感じた。
『4月12日18:24 〇〇駅改札前』
『4月12日19:10 〇〇公園ベンチ左端』
『4月13日08:15 〇〇ビル屋上フェンス越し』
それは単なるメモなどではなかった。
日付、時刻、そして場所。
誰かがその靴を履いて(あるいは持った状態で)移動した「記録」だったのだ。
「未使用品のはずなのに、おかしいじゃないですか。
それに場所の指定が妙に具体的で…」
動悸を抑えながら読み進めていくと、文字はソールのつま先部分まで続いていた。
そして一番最後の行。
そこに記されていた内容を見た瞬間、Aさんはスニーカーを床に放り出した。
『5月15日14:00 [Aさんの自宅の住所]玄関前着』
今日の日付。そして自分の住所だ。
「この靴、私が注文する前から、ここに来ることが決まっていたみたいで…」
さらに不可解なのは、出品者の居住地は遠く離れた九州地方だったことだ。
配送にかかる時間を考えれば、数日前に発送されていなければ、今日届くはずがない。
それなのに靴底には「今日、ここに到着する」ことが、まるで確定事項のように記されていたのだ。
Aさんは恐怖のあまり、出品者に問い合わせようとアプリを開いた。
しかし、そこには『このユーザーは退会済みです』という無機質なメッセージが表示されるだけだった。
「その夜、玄関から『コツ…コツ…』と、何か硬いもので床を叩くような音が聞こえてきたんです。
怖くて確認できませんでしたが…」
翌朝、玄関に置いていたはずのスニーカーの向きが、昨日とは逆に「外」を向いていたという。
現在、Aさんはそのスニーカーを塩を振って処分したというが、今でも新しい靴を買うたび、まず靴底を確認せずにはいられないという。
あなたが今履いているその靴。
その裏側に、誰かの予定が書き込まれていないと、断言できるだろうか。