怖い話と怪談の処

あなたが今読んだその話、本当に「作り話」だと言い切れますか?

【怪談】深夜の自販機コーナー、お湯を注ぐ3分間に聞こえる「呼び出し音」

国道沿いの外れに、ポツンと取り残されたように佇む無人の自販機コーナー。

今回、当時の戦慄を語ってくれたのは、長距離トラックの運転手をしているHさん(40代男性)だ。

 

半年前、ひどく雨の強い夜のことだった。

深夜3時。

連日の長時間運転で疲れ果てていたHさんは、眠気覚ましと空腹を満たすため、明かりの漏れる古い自販機コーナーに車を停めた。

店内は数台の自動販売機と、長年使い込まれて表面の剥げた、プラスチックのベンチがあるだけの殺風景な空間だ。

 

「…腹、減ったな」

Hさんは小銭を入れ、カップ麺の自販機でボタンを押した。

カタン、と取り出し口にカップが落ちる。

彼はそれを手に取り、透明なフィルムを剥がして上蓋のラベルを半分まで開けた。

そして、自販機に備え付けられた給湯スペースの奥へカップを差し込み、お湯を注ぐボタンを押した。

「…ジャーッ」という音と共に、熱いお湯がカップを満たしていく。

お湯を入れ終え、箸で蓋を押さえながらベンチに座る。

出来上がりまでの3分間。

静まり返った店内に、外の激しい雨音だけが混じり合っていた。

 

その時だった。

「プルルル…プルルル…」

突如として、隅に置かれた旧式の公衆電話が鳴り響いた。

深夜の無人店舗。

こんな時間に誰がかけてくるのか。

Hさんは無視しようとしたが、呼び出し音は執拗に、そして耳をつんざくような大きさで鳴り続けている。

何かに引き寄せられるように、彼は受話器を手に取った。

 

『…もしもし?』

受話器の向こうからは、ゴーッという凄まじい雨音と、ノイズが混じった女の声が聞こえてきた。

『…そこ、私の席』

「え…?」

『私の席…』

冷たく、感情の欠落した声だった。

Hさんが慌てて背後を振り返ると、さっきまで誰もいなかったはずのベンチに何かが座っていた。

それは頭の先から足の先まで、まるでバケツの水を被ったかのようにぐっしょりと濡れた女だった。

女はHさんの方を見ようともせず、ただ前を向き、何も持っていないはずの手を口元に運び、ズズッ、ズズズッ…と、何かを啜る音だけを響かせている。

その音は次第に大きくなり、まるで喉の奥に直接水が流れ込むような、不気味な湿り気を帯びていった。

Hさんは恐怖のあまり受話器を放り出し、出来上がるのを待っていたカップ麺も放置して、雨の中を自分の車へと逃げ帰った。

 

震える手でキーを回し、アクセルを強く踏み込む。

加速する車のバックミラーに、遠ざかっていく自販機コーナーの明かりが映った。

そのガラス戸の向こう側に、一人の影が立っていた。

影は、Hさんがお湯を注いで置いてきたカップ麺をに抱え、激しい雨の降る外をじっと見つめていた。

 

翌日、Hさんは気になって、明るい時間帯にその場所を再訪した。

しかし、そこにあったのは、数年前に閉鎖され、すべての自販機が撤去された廃墟のような建物だけだった。

電気など通っているはずもなく、公衆電話のコードも無残に断ち切られていた。

だが、彼が昨夜座っていたはずのベンチの上には、一つの跡が残っていた。

そこだけが、まるで今さっきまで誰かが座っていたかのように、じっとりと濡れていたという。

 

「あの日、もしあのまま麺を食べていたら…。

私は今、あっち側の席に座っていたのかもしれません」

 

Hさんは今でも深夜の自販機コーナーを見ると、あの「ズズッ」という啜り音と、電話のベルが聞こえるような気がしてならないという。